全1335文字
PR

カーボンニュートラルで日本に先行する欧州。ドイツで建築分野の革命が起こった。鉄筋を炭素繊維に置き換えた、「カーボンコンクリート造」建築が世界で初めて実現。脱炭素時代に生まれた新しい建築の実力に迫る。

 日本からおよそ9000km。ドイツ東部に位置するドレスデン工科大学内に2階建ての建物「CUBE」が誕生した。コンクリートの配筋を炭素繊維に置き換えた、世界初の「カーボンコンクリート造」建築だ〔写真1~4〕。

〔写真1〕脱炭素時代の建築が誕生
〔写真1〕脱炭素時代の建築が誕生
世界で初めて実現したカーボンコンクリート造建築「CUBE」。ねじれたコンクリートシェルが壁と天井を兼ねる。2020年に着工、22年9月に竣工した(写真:Stefan Müller)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真2〕ねじれた形状が目を引く
〔写真2〕ねじれた形状が目を引く
ドイツのドレスデン工科大学内に立つ。敷地面積は2375m2。アインシュタイン通りに面している(写真:Stefan Gröschel、IMB、TU Dresden)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真3〕開口が建物を斜めに貫く
〔写真3〕開口が建物を斜めに貫く
建物の長さは長辺方向24.1m、短辺方向7.8m。2枚のねじれたコンクリートシェルの間に隙間を設け、天窓とした(写真:Stefan Gröschel、IMB、TU Dresden)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真4〕実験室や会議室として利用
〔写真4〕実験室や会議室として利用
建物内部から見ると、壁と天井がシームレスにつながっているのがよく分かる。奥に見える暗いグレーの箱は、2階建てになっている(写真:Stefan Müller)
[画像のクリックで拡大表示]

 高さ7m、全長24.1mで、延べ面積は243m2。実験室やオフィス、会議室などとして使用している。ドイツを拠点とする建築設計事務所HENNが設計を手掛けた。

 この施設は、ドイツ教育研究省が資金提供する研究プロジェクト「C3(Carbon Concrete Composite)」の成果を対外的に見せるものだ。C3が研究を重ねてきたカーボンコンクリート造の可能性を実物で示した。

 建物は大きく分けて、2つの要素から成る。1つは、天井と壁を兼ねるねじれたコンクリートシェル。南北に延びる2枚のシェルを点対称に配置し、空間を覆った。シェルは、現場で組んだ型枠上に吹き付けコンクリートで施工。炭素繊維で補強した〔図1写真5、6〕。

〔図1〕壁と天井の区別をなくす
〔図1〕壁と天井の区別をなくす
CUBEのコンセプトを示したダイヤグラム。カーボンコンクリートを用いたからこそつくれるデザインを探求した(資料:HENN)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真5〕炭素繊維を織物のように用いる
〔写真5〕炭素繊維を織物のように用いる
外壁となるコンクリートシェルを施工する様子。コンクリートを吹き付ける前に、格子状の炭素繊維シートを設置する(写真:Stefan Gröschel、IMB、TU Dresden)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真6〕吹き付けたコンクリートの表面を平らにする
〔写真6〕吹き付けたコンクリートの表面を平らにする
コンクリートシェルは軽量充填材を含む厚さ25cmの耐荷重シェル、厚さ15cmの断熱・防水層、厚さ4cmの耐候シェルから成る。シェルをつくり始めたのは21年10月。21年末に完成した(写真:Stefan Gröschel、IMB、TU Dresden)
[画像のクリックで拡大表示]

 もう1つは、建物内部に配置したコンクリートの箱。2階建ての構造物で、壁の厚さは27cm。工場製作の厚さ4cmのカーボンコンクリート製パネルを内側と外側に1枚ずつ配置し、間に断熱材などを挟んだ〔写真7〕。

〔写真7〕プレキャスト部材も製造
〔写真7〕プレキャスト部材も製造
建物内部に配置したコンクリートの箱はプレハブ式でつくった。写真はカーボンコンクリート造の壁を製造する様子。型枠に炭素繊維シートを入れている(写真:Stefan Gröschel、IMB、TU Dresden)
[画像のクリックで拡大表示]

 HENNはデザインの意図こう説明する。「天井と壁をシームレスに融合させることで、炭素繊維が持つ、流動的で織物のような性質を表現した。天井と壁はもはや別々の要素ではない。建築の構成要素を根本から見直し、未来の建築の形を考えた」