DX(デジタル変革)の推進では様々な関係者とのコミュニケーションが必要だ。その際には事業部門などからの抵抗や部門間の対立が頻繁に発生する。ITエンジニアには、双方が納得できる形を見いだす高度なスキルが求められる。
近年、DXに取り組む企業が急激に増加しています。その背景には、国内市場の成熟、グローバル化の進展、労働人口の継続的な減少などに伴い、企業にはさらなる生産性の向上や新たな付加価値の提供が求められていること。センサー、無線通信、クラウド、AI(人工知能)、ロボティクスなどデジタル技術の高性能化や低価格化が進み、設備や機器の状況・状態や、人の行動や動作などのアナログ情報をデータにして活用できるようになったことの2つがあります。
DXとは、「企業が競争優位を確立するために、デジタル技術を活用して新しい事業の創造や現行業務の変革に取り組むこと」です。DXでは、従来の情報システムが主なサポート領域としてきた管理・間接業務だけでなく、営業、設計、製造、工事、物流、保守サービスなど、現場の直接業務もサポート領域にします。また、従来活用してきた情報技術だけでなく、進化を続けているデジタル技術を活用することが重要です。そのため、DXを推進するITエンジニアは、広域なユーザーや多様なパートナーとコミュニケーションを取る必要があります。
「抵抗」や「対立」へ適切に対処する
また、DXは多くの企業にとって新しい取り組みです。そのため、DXを推進する際には、事業部門などの関係者から抵抗を受けることが多く、関係する部門同士で意見の対立が頻繁に発生します。そこで、DXの推進者は、随時発生する「抵抗」や「対立」に適切に対処して、DXでの取り組み内容について関係者全体から合意を取り付けることが重要です。
このように、DXの推進を任されるITエンジニアには、様々な立場や価値観を持つ関係者と高度なコミュニケーションを取るスキルが求められるのです。
筆者は30年以上、「何のために、何をシステム化するか」を決める、システム企画や要件定義を担当しています。そこでは、プロジェクトの責任者となる経営層、システムの利用者となる事業部門の管理者や実務担当者、プロジェクトの推進役となるIT部門や企画部門とのコミュニケーションが必要になります。立場の異なる彼らの意見は食い違うことが多く、総意の結論を導き出すのに苦労してきました。
特に近年担当する機会の増えたDXプロジェクトでは、従来のシステム化以上に事業部門のメンバーからの抵抗や、関係部門の間で意見の対立が生じることを実感しています。
筆者はこれまで、上記の活動を通してコミュニケーションに関する考え方や方法を学び、実践を繰り返す中で具体的なノウハウを蓄積してきました。本連載ではそのノウハウを基に、ITエンジニアの皆さんに対して、DX時代に求められるコミュニケーションの考え方と方法を、架空のDXプロジェクトの事例を用いて解説します。