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DX(デジタル変革)の施策を実行に移すには関係者から納得や協力を得ることが重要だ。そのためには施策の内容だけでなく、メリットと実現性を併せて関係者に伝える。特に、施策を実行する相手個人のメリットを具体的に伝えることが有効だ。

 DX(デジタル変革)とは、企業がデジタル技術を活用して新しい事業を創造したり現行業務を変革したりする取り組みのことです。DXでは経営層、事業部門、IT部門、外部パートナーなど様々な関係者が関与するため、推進を任されたITエンジニアには関係者と上手にコミュニケーションする力が求められます。

 コミュニケーションとは、こちらの伝えたい情報や意見を「伝え」、相手が伝えたい情報や意見を「受け取り」、意見が食い違うときにすり合わせて「合意する」ことです。

 「伝える」「受け取る」「合意する」には、それぞれを円滑に実施するためのスキルやテクニックがあります。

 今回からは、こちらの情報や意見を誤解なく伝えて、相手から理解や納得を得て協力を取り付けるための「伝える」スキルを解説します。今回は施策を説明する際に、相手に伝えるべき内容を見ていきます。

個別説明でのアドバイスを受ける

 医療機器を製造・販売するNBP工業のIT部に所属する岡田課長は、工場DXプロジェクトの責任者である森山工場長から、推進事務局のリーダーに任命された。プロジェクトを円滑に進めたいと考えた岡田は、設計部、製造部、資材部、品証部から選ばれた検討メンバーに、プロジェクトの狙いと進め方を個別に説明すると連絡した。

 個別の説明をする前に、アドバイザーとして参加している日経ソリューションズの大塚に相談し、アドバイスをもらうことにした。大塚は、業務改革を伴うシステム化のサポート経験が豊富なベテランSEだ。

 「メンバー全員のキックオフミーティングを行う前に、検討メンバーへ個別の説明をすることにしました」

 「それはいいですね。どういう説明をするおつもりですか?」

 大塚が温和な表情で質問した。

 「この資料を使って説明するつもりです」

 岡田は用意した資料を大塚に手渡した。そこには、3つの情報が記載されていた。

 1)現状、NBP工業が売り上げを拡大させる一方、製造コストが上昇し利益が伸び悩んでいること、2)利益を拡大するために、製造コストの削減を目的に工場DXプロジェクトを発足すること、そして3)DXプロジェクトをどういう手順、体制、スケジュールで進めるか――である。

 「この資料に書かれていること以外に何か説明することはありますか?」

 目を通した大塚は再び質問した。

 「ここに記載した内容以外は考えていませんでした」

 「そうですか。この内容に加えて、DXプロジェクトに取り組むメリットを説明したほうがよいと思います」

 「製造コストを下げて、利益を増やすことがメリットだと思いますが…」

 岡田が答えた。

 「確かにそれは企業にとって大事なメリットです。ただ、それだけでは不十分だと思います」

 大塚の助言に、岡田は不思議そうな表情を浮かべた。

 「詳しく説明しましょう」