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顧客を巻き込むグーグルの改善

 価値増幅サイクルがビジネスの現場でどのように利用されるのか、以下で実例を見ていこう。

 まずは米グーグルだ。グーグルは絶えず検索サービスを改善している。顧客の検索行動を常に観察し、検索結果がユーザーの期待に応えるものであるか否かを評価し、より適切な検索結果を返すようにアルゴリズムを改定している。スティーブン・レヴィ著の『Inthe Plex』を基に、グーグルがどのような手順で検索エンジンを改善するのか、以下で紹介しよう。

 グーグルでは、エンジニアが検索結果の欠陥を発見すると、それを検索アナリストの管理下に移す。そしてエンジニアが検索結果の不具合の原因を特定し、アルゴリズムを変更する。

 アナリストは変更後のアルゴリズムをテストする。テストには世界各地で採用された数百人のテスターが参加する。テスターが、変更前後の検索結果を比較して良くなったかどうかを評価する。

 さらに一般ユーザーもテスターの役割を果たす。ユーザーのごく一部(1%程度)に変わったことを知らせずに新しいアルゴリズムを提供し、古いアルゴリズムを使って検索している多数のユーザーと反応を比較する。いわゆる「A/Bテスト」だ。テストの結果を踏まえて、アルゴリズムを公開するかどうかを決め、最終的には50人ほどのエンジニアが参加して変更版の検索の公開を決定する。

 検索エンジンの改善過程はまさに、データ分析も使った価値増幅サイクルである。グーグルの価値増幅サイクルにおいて、テストの被験者として、あるいはテストをコントロールするグループとして顧客を自動的にグーグルの価値創造に参加させているのだ。

業務プロセスを可視化して評価

 価値増幅サイクルがデジタル化されている場合、ユーザーである顧客の反応をリアルタイムで把握できる。

 例えばイノベーションをWebアプリケーションの形で実現している場合、画面遷移や利用時間、利用結果といったログを解析することで顧客の反応を観察できる。Webアプリケーションを業務プロセスに組み込んでいる場合はリードタイムの測定も可能だ。

 サービス部品をBPM(ビジネスプロセスマネジメント)システムに組み入れて実行すると、サブプロセスごとにリードタイムをログとして蓄積できる。統計を使って分析すると、業務にかかったリードタイムの平均値やばらつきの大きさなどがわかる。

 異なる複数の業務プロセスや組織で、リードタイムの可視化を実行することで、プロセスや組織間の比較が可能になり、現場ごとに改善点が明らかになる。

 可視化できる仕組みを用意しておけば、サービス部品の改定や業務プロセス組み替えの前後で比較することも可能になる。これにより、改定による改善効果も検証できるようになる。さらには、業務プロセスを組み替えた場合のリードタイムの変化をシミュレーションして、組み替え前に確認することも考えられる。

実用化プロセスの勘所

 前回のブリッジプロセス、そして今回の価値増幅サイクルと実用化に関するプロセスを説明してきた。

 価値創発サイクルにおいて生み出した新たな顧客サービスや業務プロセスを、ビジネスの現場に浸透させることができずに、宝の持ち腐れにしてはならない。そのためには、実用化を担うブリッジプロセスと価値増幅サイクルの確立が重要になる。

 改めて実用化を担うプロセスのポイントを振り返ろう。

 ブリッジプロセスは実用化するための情報システムだけではなく、現場の組織と業務の受け入れ体制、そして新たな業務プロセスへの移行を準備することが欠かせない。実用化したサービス部品の管理は、SOA(サービス指向アーキテクチャー)に基づいた管理プロセスで実行する。

 ブリッジプロセスは新しいアイデアの実用化だけでなく、既存システムの機能やデータをサービス部品化して価値増幅サイクルで利用可能にする役割を果たすことも、押さえておくべきポイントだ。

 ブリッジプロセスに続く価値増幅サイクルは、各事業部門における現場主導のDMAIICサイクルを、デジタル化によって可視化して回し続けることで実行する。価値増幅サイクルによって改定が必要となったサービス部品は、ブリッジプロセスに戻されて変更され、再度、価値増幅サイクルに公開される。

 価値創発サイクル、ブリッジプロセス、そして価値増幅サイクルを繰り返すことで、デジタル変革を実行するための価値創造サイクルを実現できるようになるのだ。

淀川 高喜(よどかわ・こうき)
日本ITガバナンス協会 理事
日本ITガバナンス協会 理事、産業技術大学院大学非常勤講師(教授待遇)、MBA、博士(商学)。1979年野村総合研究所に入社、2008年より研究理事を務め2017年6月に退任。専門であるITによる企業変革に関する著書多数。