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人的資本経営を推し進め、DX(デジタル変革)実現を目指す企業が増えている。そのためジョブ型人事制度への移行や社員のリスキリングを加速させている。ただし、理想だけでは人材は育たない。事業戦略と一体になった育成計画が必要だ。

 政府は「新しい資本主義」の柱の1つと位置付ける「人への投資」を強調し、年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行など、労働移動円滑化に向けた指針を2023年6月までに取りまとめる考えを示している。人的資本経営とは、企業の成長の源泉となる「資本」として、人こそが投資対象であると捉え直す考え方だ。日本にも導入の機運が出てきた。

「全社で実践」は11.5%

図 日本企業における人的資本経営の実践状況
図 日本企業における人的資本経営の実践状況
実践で「未検討」「情報収集・推進検討中」とした割合が過半(出所:アビームコンサルティングの調査資料を基に日経コンピュータ作成)
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 欧米企業の人的資本への関与は深まる一方だ。2022年10月、PwCコンサルティングはグローバル大手企業約300社を対象に人的資本指標の開示状況についての調査結果を発表した。社員1人当たり育成コストの開示は北米企業では2013~21年で5倍に伸び、欧州では46.3%の企業が開示している。

図 社員1人当たり育成コストの開示割合の経年変化
図 社員1人当たり育成コストの開示割合の経年変化
北米の調査対象企業では8年で開示割合が5倍に(出所:PwCコンサルティングの調査資料を基に日経コンピュータ作成)
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 一方、アビームコンサルティングが同年10月に公表した、日本企業の「人的資本経営」実態調査によると、人的資本経営の実践を「全社で運用中」とした担当者は11.5%にとどまった。ただし「既に導入・運用を開始している」企業は、年平均売り上げ成長率が10%以上の「成長企業」で51.6%だった一方、同成長率が0%未満の「マイナス成長企業」で30.2%と、約1.7倍の開きがあった。「成長企業のほうが人的資本経営については一歩リードしている」と同社の斎藤岳執行役員は話す。

図 人的資本経営を既に導入・運用を開始していると回答した企業の割合
図 人的資本経営を既に導入・運用を開始していると回答した企業の割合
人的資本経営の実践、成長企業はマイナス成長企業の約1.7倍(出所:アビームコンサルティングの調査資料を基に日経コンピュータ作成)
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 人的資本経営が世の潮流となりつつあるなか、ジョブ型人事制度に移行したり、社員のリスキリングを強化したりする日本企業が相次いでいる。

 「日本企業の職能資格制度は1970年代に年功序列を打破するために生まれたが、結果として年功的になった」。パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は語る。職能資格制度とは職務遂行能力によって社員の職能資格を設け、それに基づいて昇進や昇格、昇給を決める制度のことだ。一般に職務遂行能力は経験を積むほど上がるため、年功序列的な運用が残った。

 ただしデジタル化が進み、職務遂行能力という尺度では変化の速いAI(人工知能)などの技術が扱える人材の採用や処遇が難しくなった。そこでマネジメントや専門職など複数のキャリアコースを用意する複線型人事制度などが生まれた。ジョブ型人事制度はこうした複数のコースに職群などを加味したうえで、より細かく職務(ジョブ)に分けたものと捉えることができる。

 ジョブ型など自社に合う制度やリスキリング、高度デジタル人材の確保、経営人材の選抜・育成といった個々の人事施策を連携させながら、それらを通じて人的資本経営を実現する。そのことによってDXを達成し、イノベーションの創出につなげる。デジタル技術で競争力という土壌を耕す「DX人的資本経営」がいよいよ動き出した。