高度デジタル人材の獲得競争が激しさを増している。企業は自社の事業のDX(デジタル変革)に向け、積極的な育成・学び直し策を仕掛ける。東急・SOMPO・武田薬品工業など6社の取り組みに迫った。
東急
低いデジタル活用イメージ 「ギャップ萌え」に注力
「高度ソフトウエア開発人材は引く手あまた。採用は5~6年前と比べて、5倍ぐらい難しくなっている印象がある」。東急の宮沢秀右・デジタルプラットフォーム URBAN HACKS VPoEはこう語る。自社システムの内製化目的で積極的に採用するためだ。
東急の高度デジタル人材獲得戦略について宮沢VPoEは「ギャップ萌(も)えに注力する」と表現する。デジタル人材にとっては、鉄道や百貨店といった実空間の事業を持つ東急グループの知名度は高い一方、デジタル活用のイメージの薄い創立100年の老舗で何をするかは見えづらい。このギャップをどう魅力的だと感じてもらえるかを軸に採用活動をするというわけだ。
そのためにはデジタル人材が想像力を働かせること、そして課題解決スキルと意欲を持っていることが必要だ。そんな考えから、プログラミングのコードを模した募集広告を東急線の車両に掲示した。
2021年7月、東急はグループ横断で街づくりのDXを進める組織「URBAN HACKS」を設立した。東急グループ約230社の顧客サービスや社内業務システムを変革することを目的とする。顧客体験をアジャイルに改善し続けるため、内製開発の強化を掲げる。採用したエンジニアやデザイナーなどのデジタル人材は2022年11月時点で30人を超える。
URBAN HACKSはこれまでにグループ各社と連携し、公式スマートフォンアプリの開発やリニューアルを手掛けてきた。3~5年後には「デジタル共通基盤」を構築する。顧客価値向上に向け各事業のデータを連携し、グループ横断で活用するための基盤だ。
まずアプリをリリースし、バックエンドに何が足りないのかを既存システムの運用側にフィードバックし、改修点を明確にしたうえで作る方針だ。それは、東急グループが掲げる2050年のありたい姿としてデジタル都市基盤とリアル都市基盤を融合させた「City as a Service」構想のためだ。
URBAN HACKSは「東急グループ社員の賃金レンジからかけ離れた高給を支払うわけではない」(宮沢VPoE)が、年功序列の壁を壊し、実力主義で処遇している。高度デジタル人材には、上記のようなビジョンに共感してもらう必要があるという。