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富士通や日立製作所、NTTデータは2022年にジョブ型人事制度の適応範囲を拡充した。先陣を切った大手IT3社の取り組みには3つの共通点がある。IT人材が活躍するための「ジョブ型」が形だけの施策とならないヒントを探る。

 富士通と日立製作所の2社は労働組合との協議などを経て、ジョブ型人事制度をそれぞれ2022年4月と7月、一般社員へ適用した。NTTデータは以前から高度IT人材を対象にしていたが、2022年7月に管理職も対象とした。

 各社がジョブ型人事制度を通してどのような育成策を考え、活躍の場を与えようとしているのかを聞いたところ、「適所適材」「人材の流動性」「伴走型サポート」──という3つの共通点が浮かんだ。これらが今後、IT人材を最大限に生かしDX(デジタル変革)を生み出す可能性を持つ施策になるといえそうだ。

図 ジョブ型の導入を進めるITベンダー3社の人材育成における共通点
図 ジョブ型の導入を進めるITベンダー3社の人材育成における共通点
IT人材を最大限に生かす施策につなげる
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 ジョブ型は「職務(ジョブ)に人を充てる」という考え方に基づく。専門性を定めやすいIT職種はジョブ型との親和性が高いといわれている。

 国内IT人材の人数は、IT企業とユーザー企業で比較した場合、約8:2の割合で前者に偏在する(情報処理推進機構「IT人材白書2020」)。大手が動けば、IT業界全体への影響は大きい。

「あるべき姿」が先に来る

 3社に共通するのは「社員のキャリアや能力が一律のままではいけない」という危機感だ。新卒一括採用・年功序列・終身雇用といった制度と企業文化で培われた画一的人材では、組織にとってマイナスだ。ITエンジニアにとっても専門性を生かせない仕事にアサインされる可能性があるなど現行制度の下では意欲的に働けるとはいいづらい。

 自律的に働くため、社員は会社との擦り合わせを通してジョブを更新し続ける必要がある。企業は、そのよすがとなる自社の戦略やビジョン、つまり会社のあるべき姿を先に描くことが重要になる。

 富士通の藤槻智博Employee Success本部Employee Relation統括部マネージャーはジョブ型導入の意義について「組織としてありたい姿と個人のそれとの重なりを大きくすることにある」と語る。変化が激しいIT業界においては組織の方針のアップデートが起こる。その都度「(重なりを)常に広げていくことが必要だ」と話す。

 企業のあるべき姿から逆算して定義された役割がジョブで、それを言語化したものがジョブディスクリプション(JD)である。適任者を選んで仕事をしてもらうのではなく、ジョブを定義して人を充てる──。「適材適所」から「適所適材」にアプローチを変えるわけだ。

2種類のJDで「適所」設定

 JDの内容や制度は各社で異なるが、「適所適材」の考え方は通底する。

 日立にはJDを2種類用意するという独自の取り組みがある。1つは「標準JD」と呼ばれる、6の階層と75の職種から成る計450種のジョブを定義したもの。もう1つは「個別JD」で、標準JDをベースとしてポジションごとに作り込んだものだ。例えば標準JDで「データサイエンティスト(マネジャー)」として作成されたJDに、個々のポジションがカバーする領域などを追記・具体化することで個別JDを作成すると、「適所」が具体的になる。

図 日立が用意する2種類のJD(簡略化したイメージ)
図 日立が用意する2種類のJD(簡略化したイメージ)
標準JDをベースに詳細を作り込む(出所:日立製作所の資料を基に日経コンピュータ作成)
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 NTTデータは従来管理職に適用していた「SG(シニアグレード)」制度を廃止しジョブ型の「FG(フレキシブルグレード)」制度に統合した。従来は、SG制度の下3つの等級が設けられ、その等級の範囲内でしか職務にあたることができない頭打ちの状態であった。

 しかしFG制度によって「適所」の範囲が広がり、年次に関係なく、よりレベルの高い職務に就くことができる。NTTデータの岡田和恵コーポレート統括本部人事本部人事統括制度企画部長は「在級年数が(昇進の)阻害要因にならないのは大きな変化だ」と話す。