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 「NTTドコモの完全子会社化で日本の通信インフラ、国際競争力を強くします」。2020年11月27日午後4時半すぎ。NTTの澤田純社長は次期ドコモ社長の井伊基之氏を伴い、官邸で菅義偉首相と向き合っていた。菅政権が求める携帯料金引き下げへの言及は「頑張ります」のみ。わずか10分間の面談の大半を世界戦略や井伊氏の紹介に費やし、菅首相は「期待しています」と応えた。

 かつては世界をリードした日本の通信技術。だが、この20年間で大きく地盤沈下した。「日本の情報通信業の技術貿易収支は9年間赤字続き。2014年に『世界に全く貢献しない日本のIT業界は、産業の存在価値が無い』という記事を読んでショックを受けた。NTTが日本発の技術でゲームチェンジを図っていくべきだ」。澤田社長は2020年11月に開催した自社研究開発イベントの基調講演で、こう悔しさと巻き返しを語った。

「国家安全保障上の危機だ」

 5G、そしてポスト5G時代の通信はこれまでの人と人のコミュニケーションの役割から、工場の自動化や遠隔医療、自動運転など産業を支える社会基盤としての性格が強くなっていく。この成否は国家の競争力をも左右する。米国が同盟国に対して中国ファーウェイの排除を執拗に求めるのも、5Gが国家安全保障上、極めて重要な基盤となるからだ。2021年4月にNECの次期社長に就任する森田隆之副社長は「日本の通信技術の地盤沈下は国家安全保障上の危機だ」と強調する。

 国を支える通信インフラは自らの力で作る。それを日本発の技術として世界へ再び打って出る──。そんな強い思いを胸に2020年6月、資本提携に至ったのがNTTとNECだ。通信事業者とベンダーという旧来の立場を超えた異例のタッグとなる。

 両社が取り組むのはオープン仕様に基づく基地局の開発・展開に始まり、ポスト5G時代の光技術を活用した通信機器の開発、光海底ケーブルや人工衛星を利用した新たな通信など多岐にわたる。現在は100人態勢でプロジェクトを進めており、NTTの岡敦子執行役員とNECの河村厚男執行役員常務は提携後の2020年7月からビデオ会議で毎週のように顔を突き合わせる。

過去の敗戦を教訓に世界へ

 NTTとNECが異例の提携に至った背景には過去の苦い教訓がある。スマホが登場する前の2000年代の3G時代。NTTやNEC、富士通は世界に先駆けた技術やサービスで世界に君臨していた。ドコモが1999年に始めた世界初の携帯電話向けネットサービス「iモード」だ。iモード対応の携帯電話を開発するNECなどの端末メーカーも世界の最先端を走っていた。

図 日本の通信産業の再興を目指すNTTとNEC
図 日本の通信産業の再興を目指すNTTとNEC
過去20年の敗戦を教訓に再び世界に打って出る(写真:日本経済新聞社(上左)、写真提供:米アップル(上右)、写真提供:NTT)
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