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医療、製造など業種を問わず人工知能(AI)の開発ラッシュが起きている。独自のAIはデジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせない手段となった。2021年のAI開発予算は5割増との調査もあり、爆発的に増える見通しだ。

 年間約8000件の眼科手術を行う三栄会ツカザキ病院(兵庫県姫路市)はこれから手術する患者の目の左右を判別する独自のAIを2020年4月に眼科の全手術で導入した。同病院が持つ目の画像データを基に、深層学習で独自開発した。手術をする目の左右に取り違えがないか、看護師による目視での確認に加え、手術用の覆い布を顔にかぶせた患者をタブレット端末で撮影しAIで確認する。

図 三栄会ツカザキ病院が開発した左右眼判別AI
図 三栄会ツカザキ病院が開発した左右眼判別AI
手術における左右の目の取り違えを防ぐ(写真提供:三栄会ツカザキ病院)
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 医療安全の観点から現場の評判は上々だという。同病院の8割の看護師が「AIがあったほうがよい」とアンケートで回答。「ないと不安」との声も挙がったという。

 医療だけではない。製造や小売り、外食、介護など業種を問わず、企業などが業務や作業に沿った独自のAIを開発する動きが加速している。例えば日本製鉄は2020年11月に再稼働させた室蘭製鉄所・第2高炉に、高炉の温度や圧力などを基に適切な操業オペレーションを提示するAIを導入した。職人技の高炉操業を支援し、現場オペレーターの負担軽減につなげる。

 三井化学は化学プラントにおける温度・圧力の調整や原材料投入などの運転を自動化するAIの開発を進めている。AIによってプラントの生産性向上とリスク低減の両立を図る考えだ。

 フジタは油圧ショベルの自動操縦AIを開発しており、2021年にも建設現場の掘削作業に投入する。

 介護施設運営の社会福祉法人善光会は経験の浅い介護職員を支援するため、適切なタイミングで業務の指示やアラートを出すAIを開発している。2021年にも利用を始める計画だ。

 IDC Japanが2020年6月に実施した調査によると、ユーザー企業のAIシステム向け支出額はコロナ禍の影響を加味したうえで、2020年は前年比43.2%増、2021年は同45.7%増の見通しだ。

 IDC Japanの飯坂暢子ソフトウェア&セキュリティ リサーチマネージャーは「AIの用途は多様化が進んでいる」と指摘する。コールセンター業務支援など従来の用途に加え、「顧客体験向上や従業員体験向上といった高付加価値にも広がっている」(飯坂リサーチマネージャー)。

 さらに企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に力を入れていることが、独自AIの開発を後押ししている。ITコンサルティング・調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)の舘野真人シニア・アナリストは、同社が2020年11月に発表した「国内IT投資動向調査報告書2021」を基に「DXを重視する企業ほどAIへの投資意欲が高い」と指摘する。

 AI開発の工程を自動化するツールの台頭も追い風だ。「機械学習の自動化プラットフォームによって、自前のデータを基に独自AIを開発するケースが増えている」(ITRの舘野シニア・アナリスト)。