全2085文字
PR

 「介護(ケア)とは単に食事や風呂の世話をするだけではない。常に(高齢者の)生命力の消耗が最小になるように行動する必要がある」――。データ共有ツールなどICTを活用する特別養護老人ホームやデイサービス(通所介護)などを手掛ける社会福祉法人福祉楽団の飯田大輔理事長は、介護の難しさについてこう説明する。

 介護の専門職は日々、さまざまな場面で適切な判断が求められる。生命力の消耗を最小にする介護のベースとなるのは、人の体の構造や生理学的な知識だ。そこに高齢者の状態を観察した結果を加味して、例えば今日は高齢者を風呂に入れるべきか、それともシャワーや足浴にすべきかなどを日々選択している。

 最新の介護の現場では、データ共有ツールやセンサーの活用によって、複雑な判断の一部をICTが支援し始めている。例えば施設に入居する高齢者の状態や介護内容などのデータの共有だ。「過去の記録を参考に高齢者の状態変化を把握することで、今実施すべき適切な介護の判断につながる。しかしこれまでの介護記録は高齢者個人の状態を時間軸に沿って振り返りにくく、データが埋もれていた」と、介護記録ソフト「ケアコラボ」を手掛けるケアコラボ(東京・世田谷)の藤原士朗代表取締役は話す。

 ケアコラボは記録のしやすさに加えて、職員間の情報共有のしやすさも重視して介護記録ソフトを開発した。高齢者への介護の内容や、体温・血圧といったバイタルデータなどを時間軸に沿って記録していく仕組みだ。介護職員はスマートフォンやタブレットなどを利用して、介護の内容などを現場で記録していく。

 文字だけでなく、写真や動画も投稿できる。高齢者の皮膚に炎症が生じていることを画像で共有すれば、現場の判断の一助となる。炎症が生じている部位や程度などは文章で説明するより写真の方が伝わりやすい。他の介護職員はコメントを書き込む他に、「いいね」「見たよ」ボタンで素早く反応できる。2021年12月時点で全国100法人、600以上の介護事業所で導入されているという。

センサーで排せつを検知

 センサーの活用については、排せつや睡眠状態などを検知して、高齢者のリズムに合った介護サービスの提供を目指す動きがある。排せつや睡眠の様子は、オムツを開けたり部屋を訪れたりしなければ把握するのが難しい。ベテランの介護職員は高齢者ごとの排せつリズムなどを把握していることもあるが、全ての職員が適切に判断できるわけではない。これまでは、決まった時刻にオムツ交換や部屋の見回りをすることが多かった。

 排せつの検知にセンサーを活用するのは、ベンチャー企業のaba(千葉県船橋市)だ。同社がパラマウントベッドと共同開発した「Helppad」は、ベッドに敷いたセンサーで排尿や排便を検知しており、オムツを開けなくても排せつしたかどうか分かるという。

図 センサーで排せつを検知するabaの「Helppad」
図 センサーで排せつを検知するabaの「Helppad」
オムツを開けずに排せつを検知(写真提供:aba)
[画像のクリックで拡大表示]

 介護施設が導入しやすいように、汎用的なガスセンサーを用いて原価を抑えた。においの成分を検知するのではなく、においの強さの変化に着目して排せつを検知するプログラムを開発したのがポイントだ。センサーの反応データと排せつの記録を突き合わせて機械学習させ、排せつ検知の精度を高めている。

 日々の排せつ時間のデータを基に、システムが自動で個人ごとの排せつパターン表を作成する。排せつのパターンが分かれば、オムツ交換のタイミングを最適化したり、レクリエーションや入浴の時間を事前に調整したりできる。「今後は椅子や車椅子に座っている状態でも排せつを検知できるように、センサー付きの座椅子クッションなどの開発も目指している」とabaの宇井吉美代表取締役は将来構想を語る。