人口減少や採用難によって、路線バスの経営が厳しくなる地域は増える一方だ。そんな地域で生活の足を支え始めているのが「AIオンデマンド交通」である。地方都市だけでなく大都市の近郊でも、新しい公共交通として広がり始めている。
長崎県島原市。西に雲仙岳、東に有明海を望む風光明媚(めいび)なこの街は「路線バスが消えた街」でもある。2021年9月末、島原半島一円で路線バス事業を担う唯一の民間事業者である島原鉄道が、市内で運行する6路線18系統の路線バスを廃止したのだ。
これによって中長距離路線など一部を除き、島原市内の鉄道駅や住宅地などを結ぶほとんどの路線が姿を消した。人口減少や少子高齢化による乗客減、車両の老朽化や運転者不足の慢性化といった苦境が重なり、新型コロナウイルス感染症による収支の悪化が決定打となった。
自家用車などを持たない住民が「交通難民」となる危機を救ったのは「AIオンデマンド交通だ」。路線バスやコミュニティーバスのように決まった路線や時刻表がなく、事前予約を前提として同時間帯に同方向へ向かう乗客をAI(人工知能)がマッチングする乗り合い制の公共交通だ。島原市は島原鉄道から路線バス廃止の打診があったのと同じ2021年3月ごろに、AIオンデマンド交通の導入方針を固めていた。
停留所の設置や地元のタクシー会社への運行委託などで協力を取り付け、島原鉄道が路線バスを廃止した翌日の10月1日にAIオンデマンド交通「予約・あいのり・たしろ号」の運行を始めた。