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2021年9月に発足したデジタル庁の調達改革が姿を現し始めた。政府として本格的なパブリッククラウドサービスの利用に踏み出し、一部のプロジェクトでベンチャーを登用し始めた。国産大手ITベンダーに強く依存した行政機関のIT投資は20年以上変わってこなかった。だが変化は着実に起こっている。

 「『現状維持』を根本的に変える。これがデジタル庁の存在意義である」──。デジタル庁の創設に関わった平井卓也前デジタル相は2021年10月の退任会見でこう訴えた。

 変えるべき現状とは、中央官庁で8000億円、地方自治体で5000億円強ある年間IT投資の8~9割が定期的なシステム更改を含めた維持管理に使われていることである。そこでデジタル庁は全体最適の視点の下で省庁システムを束ねてアーキテクチャーを再考。硬直化した費用構造を変えることで、大幅なコスト削減を実現する考えだ。

 削減分は少子高齢化や停滞するデジタル化といった日本の課題を解決する新たなデジタル投資に振り向ける。平井前大臣はデジタル庁の役割をこのように位置付けていた。

 改革は後任の牧島かれんデジタル相に引き継がれた。自治体や政府が共同利用するマルチクラウドのシステム基盤「ガバメントクラウド」の調達を2021年10月末に実施した際には、条件を満たしたベンダー全社と契約を結ぶという政府案件では異例の調達方法を採用。複数ベンダーと標準料金をベースにした契約を結び、常にベンダー間でコストや機能を競わせつつ、政府機関がそれぞれ最適なサービスを選択できるようにする狙いだ。

 ただ現状ではデジタル庁の発足前後で政府のIT予算に大きな変化はない。デジタル庁が一括計上した政府の行政システム構築・運用費は、2021年度予算も2022年度予算(ともに補正予算分も含む)も5200億~5300億円で推移している。デジタル庁で各省庁のシステムを査定する参事官は「予算額そのものよりも、使われ方を厳しく検証するほうに注力している。効果は2021年度の決算に現れるはずだ」とする。

 ベンチャー登用の代表例には「ワクチン接種記録システム(VRS)」や「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」がある。いずれも医療システムベンチャーのミラボを選んだ。同社はワクチン接種台帳やマイナンバー関連事務の電子化など、新システムに必要な技術やノウハウを持つ。政府は「過去の実績」よりも短期開発と低コストを両立できる「今の能力」を重視したわけだ。

 VRSの発注金額は3億8500万円と相対的に安価に抑え、かつ開発期間1カ月強での短期稼働を成した。インフラにパブリッククラウドを使い、ピーク時1日100万人以上の接種記録の登録・管理をおおむね安定的に処理した。

 「コストを最適化できるベンダーの選定、クラウド活用など、デジタル庁の目指す改革を先取りできた成功事例になったと関係者は自信をつけた」。デジタル庁の幹部はこう振り返る。

図 政府IT調達を巡る課題と施策
図 政府IT調達を巡る課題と施策
IT調達改革は道半ば
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