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創業100年超の国内宅配最大手、ヤマト運輸が次の100年へ物流改革に乗り出した。EC事業者とタッグを組み、物流網の隅々までデータを連携させ柔軟な配送網を築く。自社の課題解決のみならず、日本の物流危機を乗り越える象徴的な取り組みだ。

 日本初の定期便路線事業を1929年に開始し、1976年には故・小倉昌男氏が所管官庁と闘いながら「宅急便」事業を始め、日本全国に宅配のネットワークを張り巡らせたヤマト運輸。創業から101年目に当たる2020年、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を象徴する配送サービスを世に出した。EC(電子商取引)事業者と連携して消費者に提供する「EAZY(イージー)」だ。

 従来の宅急便とは見た目も中身もひと味違う。商品を届けるのはヤマトを象徴する緑ではなく、黒い制服姿の「EAZY CREW」と呼ばれる配達員。従来の宅急便とはブランドを変えた形だ。

図 ヤマト運輸が提供する「EAZY」の利用シーン
図 ヤマト運輸が提供する「EAZY」の利用シーン
宅配危機解決の切り札になるか(写真提供:ヤマト運輸)
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 サービス面では、ECでの購入商品の受け取り方法として荷物を玄関先や宅配ロッカー、自転車のかごなどに置く「置き配」を選べるのが最大の特徴。その場所を配達直前まで何度でも変更できる気軽さもポイントだ。「急な外出のため対面受け取りから置き配に切り替える」「雨が降りそうなので置き配の場所をガスメーターボックスの中に変更する」など柔軟な使い方が可能である。今後ヤマトは配達員がどのくらい後に到着するか分かるようにするなど消費者の利便性を高めていく。

物流網全体のデジタル化へ

 ヤマトはEAZYを使えるECサービスを着々と増やしている。ZOZOやヤフー、アスクルが2020年10月までに順次参加し、同年11月にはフリマアプリのメルカリもEAZYを使えるようにした。「利用者に商品配達のストレスを与えないという物流サービスの理想に近づいた」。ZOZOの馬場祐行フルフィルメント本部拠点統括部ディレクターは高く評価する。宅配業界のみならず物流に関わる様々な業界が今、EAZYに注目している。

 なぜか。日本の物流危機を乗り越えるための「切り札」が、同サービスに集約されているからだ。物流網の川上から川下まで企業の枠を超えてデータを連携させ、物流のバリューチェーンを全体最適化するというものだ。

 「物流網の全体的なデジタル化を前提にした配送サービスだ」。ヤマト運輸の斉藤泰裕EC事業部事業戦略/商品開発担当部長はEAZYをこう説明する。同社は今後、顧客であるEC事業者が持つデータを活用した物流効率の向上に力を入れる。既に商品の集配に必要な出荷データなどはEC事業者と共有済み。加えて現在、EC事業者にとって「虎の子」である買い物の需要予測や出荷の繁閑に関わるデータを、ヤマトが把握するための共有基盤づくりも進める。実現すれば、集配所に届く荷物の増減を見越して適切な人員を確保したり、荷物を各配達員へ効率よく割り振ったりできるようになる。EC事業者にとっても、物流会社が荷受けを抑制する総量規制で商品を出荷できない事態を回避しやすくなる。

 いわゆるラスト・ワンマイルにおける人手不足解消への道筋も切り開く。将来的には個人が配達の担い手として参入しやすい環境を整える方針。運転免許を持たない人向けに専用の電動自転車を開発したり、EAZYのデータ基盤を活用して効率的な配達ルートを作成し配達員に提供したりと、様々な業務支援策を検討していく。