日本初のインターネット接続サービス会社を創業し、経営を率いて約30年。ITを活用した社会変革が進まない国内の現状を危惧する。原因は日本人のプライバシー問題への敏感さにあると喝破する。
(聞き手=浅川 直輝、玉置 亮太、高槻 芳)
2022年3月期の通期決算で売上高、営業利益ともに3期連続で過去最高を更新しました。業績好調の背景は。
いよいよ時代が変わってきたということでしょうね。これからコンピューターとネットワークの融合が一段と進み、日本は真の意味でインターネットを前提とした社会になっていく。創業以来インターネット事業を手掛けてきた当社にも、大きなビジネスチャンスが到来しています。
でも、現時点で日本のIT化はまだ遅れていますね。新型コロナウイルスのワクチン接種証明書アプリはなかなか出てこなかったし、マイナンバーもあまり使われていないでしょう。
日本のインターネットは極めて特殊
IT化が遅れた原因をどう見ますか。
一つには、日本社会のインターネットとのかかわり方が極めて特殊なのだと思っています。米国におけるインターネットには軍事技術としての長い歴史があり、その後ビジネスに使われるようになった。例えば1990年代初めの湾岸戦争では、米国が衛星通信を利用して戦場と現地の参謀本部、国防総省をインターネットでつないで会議をしました。
一方、日本はまずコンピューター関連の若い学者がインターネットに興味を持ち、そこから一般に広がっていきました。日本ではインターネットの軍事的でない側面にばかり光が当たってきた、とも言えます。
米国と日本ではインターネットの発展経緯が異なるわけですね。
そうです。そしてビジネスへの応用でも日本は特殊です。IIJがニューヨークで株式公開した1990年代末期、米国の金融機関ではシステム部門のトップを次々と変え、旧来のメインフレームから脱却してネットワーク前提のシステムに転換していきました。インターネットという技術革新の本質は「ネットワークとシステムが一体化し、すべてのデータがネット上にアクセス可能な形で置かれるようになる」点にあります。
そうした変化に日本の経営者はなじまなかったんでしょうね。データがネット上のどこにあって、どのような方法でそこにアクセスし、どう利用していくべきか。そのような視点でシステム全体を変える必要があったけれど、日本はコンピューター産業も含めて、さほど熱心に取り組んでこなかった。根が深い問題です。