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新薬作りの4本めの柱に

 私はよく社内で「これまでは研究者の情熱と、サイエンス、テクノロジーの3本柱で革新的な新薬をつくってきた。これからはデジタルを加えて4本柱でイノベーションを推進していこう」と話します。これは非常に重要なメッセージと考えています。最終的には当社のビジネスの根幹である創薬にAIを生かし、トップイノベーターを目指していきます。AI開発ベンチャーのPreferred Networksとパートナーシップを組んだ2018年ごろから、AI創薬に本腰を入れてきました。

(写真:村田 和聡)
(写真:村田 和聡)
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創薬における従来のIT活用とAI創薬の違いは何でしょう。

 AIには人間には難しい新たな価値を生み出すことを期待しています。創薬における従来のIT活用は自動化や効率化に重点を置いていました。

 当社は多様なデータを持っており、社外にもまた膨大なデータがあります。血液や尿などの検査データから画像診断データ、医薬をはじめとする様々な論文のデータまで。それらをどう生かすか。当然、人間の力だけではカバーしきれません。そこでAIを生かします。

研究者の仕事がAIにとって代わられるということですか。

 そうではありません。手段としてAIを使うだけで、イノベーションは最終的には研究者から出てきます。中心は当然研究者であり、AIをいかに活用できるかが重要です。これまでは研究者の知識や経験に頼って試行錯誤を繰り返して薬を開発していました。AIを使って試行錯誤を効率化する狙いです。まだ挑戦を始めたばかりですが、手応えを感じています。

AI創薬に注力するのは、創薬コストの増加をはじめとする製薬業界の課題が切迫感を増しているからですか。

 おっしゃる通りです。製薬業界は画期的な新薬を作る企業とジェネリック(後発医薬品)を作る企業に分類でき、我々は前者です。創薬を柱とする我々にとって、イノベーションは何より大事です。

(写真:村田 和聡)
(写真:村田 和聡)
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 一般に新薬を開発できる確率は千三つ(1000件に1件)どころか3万分の1です。開発期間は7~13年ほどかかり、開発費も年々増加傾向にあります。

 AIを生かして少しでも開発期間を短くできれば、その効果は大きい。今は抗体医薬の分野でAI創薬に取り組んでおり、既におよそ2倍の効率化につながっています。

AI創薬を含めたDXの推進体制は。

 2019年10月に「デジタル・IT統轄部門」を新設しました。同部門のヘッドは日本IBMで執行役員を務めていた女性で、私が自らヘッドハンティングしました。

 当部門は2つの部署で構成します。1つは主にデジタル戦略を担う「デジタル戦略推進部」で、実務とデジタルが分かる研究者や営業など7つの部門から若手を集めました。年配社員にはない斬新な発想に期待しています。