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社長就任以来、10年間で売上高を2倍以上に増やした。電子部品メーカーに徹し、国内生産を重視して製品の差異化に努める。IoTを大きな市場機会と捉える一方、おごりは禁物と気を引き締める。

聞き手=シニアエディター 田中 淳

村田 恒夫(むらた・つねお)氏
村田 恒夫(むらた・つねお)氏
1951年京都府生まれ。1974年同志社大学経済学部卒、村田製作所入社。欧州拠点への赴任などを経て1989年に取締役。1991年に常務に就任し海外事業や新規事業開発などを担当。1995年に専務、2003年に副社長。2007年に社長に就き、2017年から現職。67歳。(写真:太田 未来子)
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3カ年の「中期構想2018」の最終年度です。手応えはいかがですか。

 今年度は売上高が約15%増、営業利益が約48%増を見込んでいます。第1四半期(2018年4~6月)は計画通りに推移しました。主力製品であるMLCC(積層型セラミックコンデンサー)などの需要拡大に伴い、設備投資を増やしている状況です。「年率5~10%の成長」という最大の目標は達成できそうです。

 電子部品の市場環境は我々の想定通り、非常に強い状況にあります。中でも自動車分野はADAS(高度運転支援システム)の搭載が増えるなど電子化率が上がり、急拡大しています。

スマホにも成長の余地

一方で成長を支えてきたスマートフォンの販売台数は頭打ちです。

 確かに台数の伸びは止まっていますが、中身は高機能化が進んでいます。例えば、通信速度を上げたり信頼性を高めたりするためにRF(高周波)回路の数を増やしています。RF回路に使う電子部品は我々の得意分野であり、まだ成長の余地があります。

 2020年に向けて5G(第5世代移動通信システム)の実用化が進むのも追い風です。3Gから4Gへの移行時期の急拡大に比べると緩やかかもしれませんが、5Gで使われる周波数に対応する高周波部品の需要が生まれます。

中期構想では「新商品の売上高比率40%以上」も目標に掲げています。

 創業者(村田昭氏)が1954年に定めた社是に「独自の製品を供給して文化の発展に貢献し」という一節があります。我々はまだ世に出ていない新しい特性を持つ商品を提供していきたいという思いを強く持っています。それを具体的な目標としました。

 電子部品は年々値下がりする特性を持ちます。新機能を備えた商品を常に出していかないと売り上げや利益は上がりません。値下がりに対抗する意味でも新商品開発に力を入れる必要があります。

 そのために研究開発費として売上高の6~7%を投じています。2018年度の研究開発費の見通しは1100億円で、5年前の約2倍の規模です。半導体メーカーほどではありませんが、「受動部品」と呼ばれるコンデンサーやフィルターを主力とする電子部品メーカーとしては高い水準を保っています。

IoTは裾野が広い市場

IoT(インターネット・オブ・シングズ)の広がりは事業にどんな影響を与えますか。

 大きな市場機会が生まれたと考えています。IoT機器には通信機能が欠かせません。Bluetoothや無線LAN、LPWA(低消費電力のIoT向け通信サービス)などの無線通信モジュールをあらゆる機器が搭載します。

 センサーも重要です。様々な場所に置かれた機器が世界をセンシングしています。センサーと通信を組み合わせた事業が期待できます。

 IoTでたくさんのデータを集めるようになると、データセンターの増強も必要になります。そこで使われる電子部品や電源、電池などの需要も間接的に拡大が見込めます。

 スマホのような1つの固まりの市場とは違い、IoTは裾野が広い市場です。幅広く浸透しつつある状況ですね。

IoTは自社の製造現場にも適用できそうですね。

 FA(ファクトリーオートメーション)分野で活用していきたいと考えています。センサーと通信を組み合わせた機器を自社工場で使う取り組みを進めています。社内の工場で実績を積んだ設備の稼働率を高めるソフトの外部提供にも乗り出しました。

 生産設備の情報をMES(製造実行システム)や基幹システムといかにやり取りするかが重要です。社内ではそのための標準化を進めています。集めた情報を使ってAI(人工知能)で納期を見積もるといった試行も始めました。

ITの活用を進める人材には何を求めていますか。

 MESなどの業務システムの多くを独自に開発しています。それを担う人材はITだけでなく、業務の内容や情報の使い道を分かってほしいですね。

 ビジネス創造のマインドも持ってほしいと期待しています。IoTの広がりの中で、我々の部品を中核にしたサービス型の商品の開発にも力を入れています。そうしたサービスの開発を加速する人材として活躍してもらいたい。

 IT人材については内部での育成とともに外部からの採用を積極的に進めています。ただ、なかなか人数が追い付かないのが現状です。