DXへとかじを切った日本取引所グループを率いる。デジタル化のけん引役としてJPX総研を設立し、システム障害で辞任した元東証社長をトップに据えた。ESGの潮流も捉えたデジタル証券市場創設など、従来を超えた取引所の姿を追求する。
(聞き手=浅川 直輝、山端 宏実)
この4月に始まった2024年度までの中期経営計画を語る上で、2020年10月1日のシステム障害による終日売買停止は避けて通れません。トラブルをどう捉えていますか。
日本取引所グループ(JPX)はITが本当の意味で重大な役割を果たしている会社です。非常に大きなシステムコストをかけた装置産業になっていて、今ではシステム関係の経費が会社の総経費の45%程度を占めています。昔は証券取引の注文執行を担う最大で2000人もの場立ちがいました。20世紀の最後にIT化されてからは、東京証券取引所のフロアに人はほとんどいなくなりました。
東証の取引システムは2020年10月1日のようなトラブルで停止すると、社会的に大変な問題を起こす宿命を背負っています。2020年当時、私にとって経営の最大のテーマはDX(デジタル変革)とESG(環境・社会・企業統治)への対応で、これらに取り組もうと思っていたタイミングでシステムトラブルが起こってしまいました。
ネバーストップだけでは不足
経営トップとして、2020年10月1日のシステム障害は何が問題だったと考えていますか。
システムが止まった後、再立ち上げをするときのルールが決まっていなかったことです。当社のCIO(最高情報責任者)をはじめとしたシステムの担当者は、止まらないシステムをつくるという「ネバーストップ」の掛け声のもと、プライドを持って取り組んできました。
一方で2020年10月1日の障害では、システムそのものは立ち上げられる状態でしたが、証券会社や機関投資家から受け付けた未執行のオーダーをどうするかというルールが決まっていませんでした。
そこで(業務やシステムの障害回復力を高める)「レジリエンス」を重要視する方針を打ち出しました。ステークホルダーにお願いをして、(株式売買システム)「arrowhead」のバージョンアップなどのタイミングに合わせて、システムの再立ち上げにかかる時間を従来の約3時間から1時間半程度に短縮する方針です。