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途上国支援を契機に、分散型IDの国際標準化と社会実装に取り組む。あえて米マイクロソフトに飛び込んだ安田クリスチーナはアーキテクトとして個人が自身のデータをコントロールできる世界の実現に挑む。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 個人を認証する新たな技術として注目されている分散型ID(Decentralized Identifier、DID)。ブロックチェーンや分散型台帳技術などを活用して信頼性を担保することで、企業や政府といった管理者に依存することなく、本人認証ができるようになる。

 安田クリスチーナは、まだ開拓中のDIDの世界で標準化活動や社会実装を担う。米マイクロソフトを代表する「アイデンティティ規格アーキテクト(Identity Standards Architect)」として、DIDなどのデジタルアイデンティティー技術の規格化や国際標準化に取り組んでいる。

 現在、多くのデジタルサービスでは、サービス提供企業やGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)など巨大IT企業がIDプロバイダー(IdP)となり、「中央集権」的に利用者のIDを管理している。一方、安田が普及を目指すDIDでは、IdPは公開鍵暗号基盤などの提供にとどまり、利用者が自らのIDを発行できるようすることを目指す。

原動力は発展途上国・難民支援

 安田がマイクロソフトに入社したのは、DIDの社会実装を進めるための「戦略」だという。DID普及には既存の認証の仕組みとの橋渡しが必要。そう考えて巨大なIdPでもある同社に入社し、自ら職務記述書(ジョブディスクリプション)を書いてプレゼンし、2020年6月に念願のポジションを獲得した。

 「DID関連の標準化活動を通じて、個人が自身のデータを管理することで、恩恵を得られる仕組みをきちんと作りたい」と安田は話す。

 原動力となっているのが大学時代から取り組む発展途上国・難民支援だ。実は、フランスのパリ政治学院に在学しているときから現在に至るまで、米国の非政府組織(NGO)「InternetBar.org」のディレクターとして途上国支援を続けてきた。それがなぜDIDの標準化活動へとつながるのか。

 2016年に支援活動を始めた当初、難民が音楽を制作しオンライン配信で収益を得るプロジェクトを実施した。課題だったのは、収入を得ても銀行口座や送金サービスのアカウントを持たない難民に、定期的にお金を届けるのが難しいことだ。本人確認ができないために、難民は口座などを持てない。経済的自立には、本人証明の仕組みが必要だと痛感した。「まずインフラを作る必要がある」と模索してたどり着いたのがDIDだった。

 そこでバングラデシュで、難民のためのID発行事業を立ち上げることにした。身分証明を持たない難民がIDを得ることで、教育や就業の機会も得やすくなる。2019年にパイロット事業として、まずは医師資格の証明を容易にする仕組みとして、DIDを活用したデジタル証明書の発行にこぎつけた。