「営業は面会が基本」という常識を打ち崩したベンチャーのベルフェイス。創業者の中島一明は自らの体験を基にサービスを作り上げた。導入企業が1200社を超えた今、ひそかに暖める大胆な策で世界を目指す。
俳優の照英がふくらはぎのヒラメ筋を見せつけ、「足で稼ぐのが営業だ!」と豪語。その直後に流れる「それ、古いです」のナレーション――。テレビコマーシャル(CM)やタクシー車内で流れる動画CMを見た人も多いのではないか。クラウド型のWeb会議サービス「ベルフェイス」の広告だ。
社名と同じ名前の付いたこのサービスは、社内会議向けではなく「インサイドセールス(直接面会しない営業)」に特化しているのが特徴。Webで営業相手と動画でやり取りし、資料を見せたり、メモを作成して送ったりできる。営業担当者にセールストークを表示したり、会話の内容を後から分析して次の営業に生かしたりもできる。
「ベルフェイスはベル(電話)のように簡単にフェース・ツー・フェースのコミュニケーションができるようにとの思いを込めて名付けた」と社長の中島一明は話す。2015年に創業。2020年に入り導入社数は1200社を超えた。
訪問しない営業を支援するツールというビジネスモデルの種は、以前に起業した際の経験にあった。故郷の福岡県太宰府市でコンテンツ制作会社を起業したのは、まだ21歳だった2007年のことだ。「当初は経営がうまくいかず、経営の勉強のため県内の社長に次々と会ってインタビューをしていた」と中島は振り返る。
そのとき収めたインタビュー動画を自社サイトに掲載したところ、数を重ねるうちに評判を呼ぶようになる。「有料でいいので掲載してほしい」との声も寄せられた。そこで2009年に社長専門インタビューサイト「福岡の社長.tv」の運営をビジネスの主力に据えた。有料にした後もインタビューの掲載数は増え、2010年にはサイトへの掲載数が500件を突破した。年商は1億円を超えた。
次に挑んだのは社長.tvのフランチャイズ展開だった。だが加盟店による顧客開拓が行き詰まり、打開策として自らが全国の営業を担当することになる。「全国を回るのは難しい。電話による『会わない営業』をせざるを得なかった」。不安とは裏腹に電話営業で売り上げは20倍近くに伸びた。「訪問にこだわらなくても売り上げを伸ばせる」。強烈な原体験となった。
その後、社長を退任することになるが、得た経験を生かすべく再び起業の道を選択。2015年にベルフェイスを興した。しかし起業当初はやはり顧客開拓が厳しかった。「コールセンターなど受け入れてもらえそうな業種に3カ月で100社はアタックしたが、空振り続きだった」と振り返る。
風向きが変わってきたのはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の普及だった。ベルフェイスのサービスは増え続けているSaaS企業と抜群に相性が良かったのだ。