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アメリカンフットボール選手として米国のプロリーグを夢見たアスリートが、起業家として学校の体育や部活動をITで支援するビジネスを立ち上げた。プロ選手らの協力を得て、データを駆使した新たなスポーツビジネスに挑む。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 ITで学校の体育や部活動を支援するスタートアップPestalozzi Technology(ペスタロッチ・テクノロジー)を起業した井上友綱は、早稲田大学のアメリカンフットボール部でエースクォーターバックとして活躍した元アスリートだ。卒業後には単身渡米し、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)選手になることを夢見ていた。

 Pestalozziは2019年7月に設立した。プロ選手の指導動画を見たりチームで練習スケジュールを共有したりできるオンラインコーチングアプリ「CoachX(コーチエックス)」、そして身体能力のデータや運動への意識調査の結果を分析できるアプリ「Alpha(アルファ)」を提供する。

米国で5年間NFLに挑戦

 井上は大学時代、19歳以下のアメリカンフットボール日本代表にも選出されたトップアスリートだった。当時、アメリカンフットボール選手である米国の大学生と交流があったこともあり、「米国で最高峰のプロリーグに挑戦したい気持ちが芽生えた」という。大学卒業後に渡米し、日本人として初めてNFLや各チームが主催するトライアウトに約5年間挑戦するなどの努力を続けたが、NFL選手には手が届かなかった。

 ただ、その5年間で新たな夢を見つけた。米国に多数存在するスポーツビジネスに関心が向いたのだ。NFLへの挑戦中に帰国したときに出会った元陸上選手の為末大の存在も大きかった。活動資金の調達についてアドバイスをしてくれた。「帰国後にスポーツビジネスをやりたいと相談したのがきっかけで、一緒に事業を立ち上げた」という。井上は自己資金に加え公的な創業支援融資を受け、為末とともに若手アスリートの発掘や育成を手掛ける企業「THE CAMP」を設立した。

 THE CAMPはその後、ヘルスケアを手掛けるスタートアップと合併することになる。合併してから4年がたった頃、井上は「ビジネスを一から学びたい」と考え会社を離れた。ファイナンスやマーケティングなどを学び、新たにPestalozziを起業した。

 日本のスポーツビジネスの市場は、米国とは比較にならないほど小さい。ITを活用したビジネスを検討していたが、日本で成り立ち得るビジネスモデルが必要だ。「あれこれ考えていたときに、『日本には体育や部活動があるじゃないか』と思い至った」と井上は振り返る。日本の中学・高校・大学は運動部の活動が盛んだが、学校によって練習環境などの格差が大きい。そこで主に学校を「顧客」として体育や部活動を支援するビジネスを作れないか。そんな着想だった。