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弁護士が開発した将棋ソフトがコンピューター将棋の世界大会で優勝した。既に将棋ソフトの棋力はプロ棋士を超え、「対人間の時代は終わった」。今後目指すのは深層学習を活用した最強ソフトの開発と将棋界への貢献だ。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 「将棋の結論めいたものに近づきつつある」。杉村達也はそう語る。コンピューター将棋の進化により、長年の謎だった「将棋は先手有利か」が確定する可能性があるというのだ。

 杉村は、自身が開発した将棋ソフト「水匠2」が、2020年5月の「世界コンピュータ将棋オンライン大会」で優勝したことで知られる。大会に参加してわずか2年目の快挙だった。

 コンピューター将棋の棋力は年々向上しており、2017年までにプロ棋士を超えた。杉村も「対人間の時代は終わった」と話す。

 そしてここ2~3年、コンピューター将棋では先手の勝率が徐々に上昇しており、現在では6割ほどに高まっている。ルールが複雑な将棋は、チェスほどには先手と後手で差が出にくいと言われる。だが、将棋ソフトの棋力向上が続けば、最善手の発見が進み、先手の勝率はさらに高まる可能性がある。

 その最前線に立つ杉村だが、「将棋ソフトの開発は完全な趣味」と言う。自身の棋力はアマ2段レベル。本職は千葉県弁護士会に所属する弁護士だ。労働問題や交通事故など幅広く担当する。2014年に弁護士になった。

 将棋を覚えたのは幼稚園児の頃。祖父に教わった。父がプログラマーで小学生の時からパソコンを使える環境にもあった。しかし、将棋やITの道には進まなかった。高校時代には弁論部に所属しており、「難関に挑戦したい」との気持ちから司法試験を受けた。

 将棋ソフトの開発は、弁護士になった後の2017年に始めた。将棋ソフトはソースコードが公開されているものがあり、自分なりの工夫を加えるとソフトがどんどん強くなっていく。それが面白く開発にのめり込んだ。

 コンピューター将棋は、指し手を先読みする探索と、局面の有利不利を判断する評価で最善手を探す。評価関数に対し、局面ごとの勝率や投了までの手数、局面の進行度といったデータを学習させて棋力を高める。杉村は序盤データの学習率を高く設定するなどの工夫で、並み居る強豪ソフトを打ち破る水匠2を短期間に作り上げた。

ディープラーニングでソフトを強く

 杉村が現在挑戦していることがある。深層学習(ディープラーニング)を活用して将棋ソフトのさらなる高みを目指すことだ。

 従来の機械学習手法だと、最善手を指すには膨大な読み(探索)を実施する必要がある。例えば、プロ棋士で二冠の藤井聡太が2020年6月の棋聖戦第2局で放った3一銀は衝撃の一手として話題になった。この指し手は、従来の将棋ソフトが6億手を読んだところで突如最善手として出てきたという。

 「深層学習を使えば、従来に比べ400分の1くらいの読みの量で、ほぼ同じ強さを実現できるようになる」と杉村は話す。

 2021年5月の大会ではコンピューター将棋の強豪として知られる「やねうら王」のチームの一員として出場した。コンピューター将棋は探索の高速化や評価関数の精緻化、さらに深層学習への知見など様々な専門性が求められる。1人で戦うより専門性を結集して戦ったほうがよい。そんな判断から参加を決めた。杉村は評価関数の精度を高めることを担当した。

 しかし、まさかの予選敗退。ソフトがフリーズするアクシデントで、決勝リーグには進めなかった。2021年秋には別のコンピューター将棋の世界大会「電竜戦」が開催される。「そこで優勝を目指す」と杉村は捲土重来を期す。