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ドローンやUGV(自動配送ロボット)を使った物流の実現を目指す。目指すのは人手不足が深刻なラストワンマイルの自動化だ。「ものづくり大国ニッポン」のプライドを胸に、未来のインフラ構築に挑む。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 「あなたたちは希望の灯(ともしび)だ」。三重県志摩市の英虞湾に浮かぶ間崎島の住民からかけられた言葉が、今も向井秀明の心に残っている。

 楽天グループが物流困難地域などでドローン配送の実現に邁進(まいしん)している。2021年1月に志摩市でドローンによる配送実験を実施した。スーパーと間崎島の往復11キロメートルを自動飛行し、住民に食料や日用品を届けた。2020年秋の長野県白馬村での実験では、標高差1600メートルの山小屋に果物や野菜を届けた。

 ドローン配送で目指すのは、必要な荷物を必要なときに手軽に運べる未来だ。向井は物流が困難なゆえに衰退が進む地域の将来を憂いている。どんな場所でも都市部のように物が届く仕組みを「地方の風向きを変えるイノベーションにしたい」と意気込む。

 事業の発端は2015年に遡る。楽天のコア事業であるEC(電子商取引)で取扱量が増えるに伴い、配送を担うドライバー不足が顕在化し始めていた。そんな折、レーシングカーのエンジニアの経験を持つ向井は、空撮用のドローンを見てこう考えた。「機体を大きくして荷物を運べるようにするのは難しくない。2020年までには当たり前のようにドローンを使えるはずだ」。

 そこで会長兼社長の三木谷浩史に直談判に及ぶ。「楽天はロボティクスのような日本の強みを生かし、物流クライシスにしっかりと対処すべきです」と訴えゴーサインを得た。当時は物流に使えるドローンがなかったため、産業用ドローンの開発を手掛ける自律制御システム研究所(ACSL)と手を組んだ。共同で物流専用ドローンを開発・改良し、2016年4月に千葉県のゴルフ場で、ゴルファーを対象に日本初のドローン配送サービスにこぎ着けた。

エンジニア視点を持つMBAに

 向井の経歴は挑戦と挫折の繰り返しだ。エンジニア時代は「スーパーGT」や「ル・マン」といった華やかな舞台で走るレーシングカーの設計者だった。だが2008年のリーマン・ショックで様々なレースの中止や撤退を経験した。「稼がないと魅力的な世界であっても無くなってしまう。エンジニアリングが分かるビジネスパーソンとして生きたい」。そう思ったという。

 一念発起しMBA(経営学修士)取得を目指し、シンガポール国立ナンヤン理工大学(NTU)への留学を決めた。アジアを留学先に選んだのは「今後プレゼンスが高まるアジアで先んじてMBAを取ろう」との判断からだ。

 留学では日本人としての「挫折」を味わう。講義は討論が中心。向井が日本企業の事例を挙げて論を展開しても、討論で相手にされないのだ。一方、サムスン電子やLG電子などが大きく伸びていた韓国の学生の発言が重視された。「これから伸びる業界で日本企業の存在価値を高めないと、日本人は海外で活躍できなくなる」。MBA取得後、魅力的に映った就職先は、IT業界で海外進出にも積極的な楽天だった。