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機械学習を学んでいた俊英が量子コンピューターの世界に足を踏み入れた。会社設立のきっかけはインターンで訪れたケニアでの「偶然」だった。量子コンピューターの実用化を促すべく、ソフトウエア開発に踏み出した。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 「ケニアで出会った投資家に、当時京都大学で量子アルゴリズムなどを研究していた藤井啓祐先生を紹介してもらった。先生がベンチャー企業の設立に向け経営者候補を探しているという話を聞いたのが全て始まり」。

 量子コンピューターのソフトウエア開発などを手掛けるQunaSys(キュナシス)のCEO(最高経営責任者)を務める楊天任は、量子コンピューターの世界に飛び込んだ経緯をこう説明する。

 今、量子コンピューターの研究開発が加速し、米グーグルやスタートアップ企業などが先陣争いを繰り広げている。日本でも2021年7月27日に、東京大学と日本IBMが量子ゲート型の量子コンピューターを稼働させたと発表した。トヨタ自動車や日立製作所など12社が活用に向けた研究に参画する。

 ハードウエア開発は進むが、実用化にはそれだけでは足りない。「実際に社会で役に立つにはソフトウエアが必須だ」と楊は言う。藤井が現在在籍する大阪大学などには、化学など様々な分野向けに量子アルゴリズムの研究開発を手掛ける研究者がいる。楊と藤井らが設立したQunaSysは、自社開発のものも含めアルゴリズムを効果的に使ってもらえるよう、企業向けにソフトウエアのパラメーターチューニングなどに取り組んでいる。

 2021年6月には、トヨタ自動車グループの豊田中央研究所と共同研究を始めたことを発表した。新しい光触媒や発光材料などの設計に役立つ材料シミュレーションを量子コンピューターで実現することを目指す。

自分の興味に従う

 楊は3歳のときに両親と共に中国から来日し帰化した。「父は洗濯機が壊れたら分解して修理するようなタイプで、父の影響もありエンジニアリングが好きだった」という。大学は工学部へと進み、機械学習を専攻する。学問の合間に部活で自動車作りにも熱中した。板金を切り出して溶接し、大型バイクから取り外したエンジンを取り付けるなど、一から自動車を作って走らせていた。

 「小さい頃から好きなものに突き進むタイプだった」と自己分析する楊は、大学院在籍時に「ロボティクス × 機械学習」を学ぼうと、その分野に強みを持つドイツに交換留学で赴く。しかしドイツで学ぶ内容は日本と変わらなかった。もっと面白い分野はないかと探した結果、ドイツでの専攻を「マネジメント」に切り替えた。ただこの時点では起業は全く考えていなかった。

 留学の終了間際、楊は「ラストフロンティアと呼ばれるアフリカを自分の目で見てみたい」と思い立つ。ドイツからケニアへと向かい、現地企業でインターンとして働いた。そこで現地を視察していた日本人投資家に偶然出会うことになる。

 「藤井先生が日本にも量子コンピューター関連のベンチャー企業が必要だと感じ、経営者候補を探している」。投資家から聞かされ、がぜん興味が湧いた。2017年5月に帰国し、2018年1月に藤井と面会した。それまでに専門書を読みあさり、量子コンピューターの原理は理解していた。そして面会からわずか1カ月後の2018年2月にQunaSysを設立している。