全1897文字
PR

福岡市長に就任以来、スタートアップ育成や規制改革で実績を積み上げた。行政手続きでの「脱ハンコ」を達成し、デジタル改革は国の先を行く。地方都市の競争力強化に向け、外国人の起業支援などの策を打ち出す。

(写真:荒川 修造)
(写真:荒川 修造)
[画像のクリックで拡大表示]

 福岡市長、高島宗一郎が采配を振るうデジタル改革が、自治体のみならず国やIT業界の注目を集めている。

 市長に就任して10年、一貫してスタートアップ企業の支援に取り組んだ。外国人による起業要件の緩和や割安料金で入居できる施設の開設など、特にIT関連の起業を後押しした。起業の指標となる開業率(総事業所数に占める新規開設数)は2013年度から5~7%台で推移し、日本の主要な都市圏の中で毎年度ほぼ1位を保つ。

 2017年にはIoT(インターネット・オブ・シングズ)の実証実験を誘致するため市営でLPWA網を整備した。そのかいあって今や、IoTやブロックチェーンなどを使ってサービスを提供する数十社のスタートアップが集積する。

 イノベーションを促進するため、様々な分野で規制改革の可能性を探ってきた。法律上の問題から中断したが、米ウーバーテクノロジーズが福岡市の国家戦略特区に着目して米国流のライドシェアの実証実験を実施したこともあった。「特区制度や規制改革を通じ、常に最先端を具現化できる街というメッセージを国内外に発信したい」と高島は語る。

 そのメッセージはIT業界に広く伝わっている。ここ数年でLINEやメルカリ、さくらインターネットなどが大規模な開発拠点を開設し、ITエンジニアの集積地としても台頭しつつある。

 市政のデジタル化も推進する。2020年9月には行政手続きに不可欠だった書類への押印を、市が単独で見直せる3800種の書類全てで廃止した。

 国の先を行くような改革に、デジタルでの行革を掲げる首相の菅義偉も一目を置く。2020年9月末、菅は高島を昼食を兼ねた会合に誘い、地方や政府の行政改革などで意見を交わしている。

 なぜ一貫してデジタル改革に注力するのか。「大きな工場を誘致するのは難しい。規制改革で『とがる』ことで地域の魅力を出すほかない」。高島は規制改革で先行し福岡独自の魅力をつくる重要性を訴える。