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DX(デジタル改革)にいち早く取り組んできた富士フイルムホールディングス。2021年には現場主導を改めトップダウン型の推進体制に切り替えた。CDO(最高デジタル責任者)は「成否は経営指標を改善できるか次第」と説く。

杉本 征剛(すぎもと・せいごう)氏
杉本 征剛(すぎもと・せいごう)氏
1989年九州大学大学院修士課程修了、富士写真フイルム(現・富士フイルム)入社。システム開発やAI/ICTの研究に従事した後、2019年にICT戦略推進室長およびインフォマティクス研究所長に就任。2020年4月より現職。(写真:陶山 勉)
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 富士フイルムグループは足かけ9年近くにわたってDX(デジタル変革)に取り組んできた。当初は生産部門や研究開発部門などの現場に密着したボトムアップ型の取り組みが中心で、各現場が個別に業務効率を高めるための活動を推進していた。

 ソフトウエアエンジニアとして主に研究開発畑を歩んできた私も、2019年にICT戦略推進室(現ICT戦略部)の室長に就く前には、担当マネジャーとしてボトムアップ型の活動に携わっていた。当時は現場の業務効率の向上で手応えを感じていたが、ボトムアップ型では経営指標の改善と直結しにくいため、もどかしい思いも抱えていた。

 例えば定型作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を現場に導入すれば、社員の作業工数が削減されて業務効率が高まる。現場からすれば、それでDXの目的を達成したことになる。だが収益などに直接寄与しないから、経営層にとっては投資対効果が判然としない。実際、経営指標に表れる成果を示せないばかりに経営層の支持を得られず、DX施策の継続が困難になる場面を何度も目の当たりにしてきた。