みずほフィナンシャルグループが一風変わった取り組みを進めている。ベンチャーキャピタルらの出資を仰ぎデジタル化を担う企業を設立したのだ。銀行内のしがらみにとらわれない自由な発想で、新サービスの創出を目指す。

1984年3月東京大学経済学部卒業、同4月日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ執行役常務大企業法人ユニット長などを経て、2016年4月に同執行役常務グローバルプロダクツユニット長兼インキュベーションPT担当役員。18年4月から現職。(写真:北山 宏一)
1984年3月東京大学経済学部卒業、同4月日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ執行役常務大企業法人ユニット長などを経て、2016年4月に同執行役常務グローバルプロダクツユニット長兼インキュベーションPT担当役員。18年4月から現職。(写真:北山 宏一)

 私はCDIO(最高デジタルイノベーション責任者)だ。役割は金融とITを融合したFinTechのみならず、あらゆる業種を巻き込んだイノベーションを起こすことにある。日本の銀行はデジタルに踏み込んでから、まだ歴史が浅い。大きく振りかぶるのではなく、まず新しいサービスとして「何ができるのか」の実績を積み上げる必要がある。

 そのための仕掛けがBlue Labだ。ベンチャーキャピタルのWiLなどと組んで、2017年6月に立ち上げた。私が社長を務めるが、WiLに過半数の株式を持ってもらい、伊藤忠商事や第一生命保険などにも出資してもらった。出資比率を15%未満に抑えて持ち分法の適用対象から外し、銀行から離れた環境で自由にやろうという発想だ。

素振りだけで終わってしまう

 Blue Labの人員の半数、約40人はみずほの行員が主に兼務している。日立製作所やNTTデータといったIT企業、コンサルティング会社などにも人を出してもらい、一緒になって銀行にとっての新たなサービスやビジネスモデルを作ろうとしている。

 銀行の中で新しいサービスを作るのは難しい。何か始めるにはリスクやコンプライアンス、既存ビジネスとの競合といった高い壁を乗り越えないといけないからだ。銀行で上司が部下によく使う言葉に「詰めが甘い」がある。「もっときちんと検討しろ」という意味だが、「やりたくない」との真意もある。これでは新しいことをやろうとしても、サービスやビジネスモデルを作る前にへとへとになってしまう。

 野球で言えばヒットを打つのがバッターの役割なのに、球場のウエーティングサークルで一生懸命に素振りをしているうちに試合が終わってしまう感じだ。こうした事態を避け、まず打席に立つためにBlue Labを作った。まずはやってみようという文化や風土を作り出していかなければならない。システム開発だけでなく銀行経営にもアジャイルの発想は欠かせないのだ。

 今は様々なPoC(概念実証)を進めているところだ。Blue Labという社名から「実験室」というイメージを思い浮かべるかもしれないが、明日の売り物を作り出す「工場」と位置付けている。新しいビジネスを作るのが重要なのであり、新技術は使っても使わなくてもいい。既存の技術の組み合わせでもよく、部下には「ビジネスオリエンテッドでいこう」と繰り返している。

 先行するのがデジタル通貨「Jコイン」の開発だ。デジタル通貨を発行してキャッシュレス社会を作りたい。福島市と北九州市でPoCを進めており、北九州市では約200の加盟店を集め中国アリババ集団の「支付宝」(アリペイ)とJコインが使える。

 1行だけでデジタル通貨を出しても意味は無く、多くの銀行が参加するプラットフォームにしなければいけない。地方銀行など日本中の銀行が同じブランドのデジタル通貨を発行できて初めて、キャッシュレス社会を実現できる。三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループなどとも一緒にやりたいと考えており、議論している最中だ。必要に応じて競合と手を組むこともいとわない。

事例を積み上げ業界を巻き込む

 小ぶりだが面白いPoCとして警備会社との取り組みがある。警備員は長年の経験から、来店者の態度によって振り込め詐欺に遭っていそうか分かるらしい。そこで警備員の「感覚」をアルゴリズムに落とし込む。このアルゴリズムを使ってみずほ銀行の店舗に設置した防犯カメラの映像を解析し、該当する人を見つけ出す狙いだ。

 例えばATMの前でスマートフォンを持った高齢者が慌てていれば、振り込め詐欺の可能性が高い。防犯カメラに組み込んで、該当する客がいたら天井のライトを急に明るくして「振り込め詐欺に注意してください」などとアナウンスするシステムを作れないか検討している。

 アナログを組み合わせた試みだが、コストもそれほどかからないし、他の銀行も利用できるプラットフォームサービスになり得る。小さくてもこうした事例を積み重ねていけば、行内はもとより、業界も巻き込んだデジタル化を推進できるはずだ。