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高知県は2022年9月、データ連携基盤「IoPクラウド」の本格稼働を開始した。ハウス内の温湿度などのデータを収集・分析し、農作物の生産性を高める。農家と大学、企業が連携する体制を構築し、データガバナンスに力を入れる。

(写真提供:高知県)
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 高知県はビニールハウスなどを使った施設園芸農業において、データを活用して生産性の向上に取り組んでいる。ビニールハウスに設置する環境測定装置にIoT(インターネット・オブ・シングズ)機能を組み込み、さらにデータを収集・可視化するクラウドサービスを構築して、2022年9月から県全体で本格的に運用を始めた。2023年1月時点で延べ2258戸のデータ提供を得て、収集したデータを営農支援や大学での研究に生かしている。

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限られた農地面積で収穫量を増やす

 高知県は県の面積のうち84%が森林で、この割合は日本で最も高い。高知県農業振興部農業イノベーション推進課IoP推進室の松木尚志主幹は「限られた農耕地で農家の所得を最大化するためには、単位面積当たりの収穫量を増やすしかない」と話す。

ハウス内の様子。高知県の農業産出額の約8割が野菜や果実、花きなどの園芸品目(写真提供:高知県)
ハウス内の様子。高知県の農業産出額の約8割が野菜や果実、花きなどの園芸品目(写真提供:高知県)
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 1年に1回の収穫で天候に左右される稲などと異なり、ナスやピーマンといった野菜をビニールハウスなどで栽培する場合だと、各種機具で管理しながら10カ月ほど毎日収穫できる。

 従来、施設園芸の生産性向上に取り組んできた高知県は、2009年11月にオランダのウェストラント市と協定を結んだ。現地視察などの交流を長年続け同国の高い園芸技術を学び、取り入れてきた。その結果「データ管理と環境制御技術が重要」(松木主幹)という気づきが生まれた。そこで「2014年度から環境制御技術を普及させる事業を進めた」(同)。

 具体的には、ハウスなど施設内の温湿度を測定する環境測定装置や、二酸化炭素(CO2)を発生させる炭酸ガス発生器などの機器を増やすため、補助金制度を設けた。現在は県内生産者の約5割が導入している。

 しかし、こうした機器から取れるデータに対し、生産者の扱いにはばらつきがあった。「データの見方が分からない」といった声が相次いだ一方で、データをうまく活用し、生産性を向上させている生産者もいた。結果として、装置を導入するだけではデータを活用した農業の普及につながらないという課題が見えてきた。

 そこで高知県は生産者からデータを収集し、農業協同組合(JA)などの営農指導員が参照して指導を最適化することで、県内の生産者全体の収穫量を高める必要があると判断。2018年にプロジェクトを立ち上げた。

図 SAWACHIの構築スケジュール
図 SAWACHIの構築スケジュール
データ連携の仕組みづくりに約4年
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