三井住友海上火災保険が営業支援にAI(人工知能)を導入した。AIが顧客情報を分析し、勧める商品とタイミングを指南する。代理店の営業力を強化して、事業ポートフォリオの転換を目指す。
MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス傘下の損害保険会社である三井住友海上火災保険が2020年2月、AIを活用した代理店向け営業支援システム「MS1 Brain(エムエスワン ブレイン)」の稼働を始めた。既存の代理店向けシステム「MS1」にAI機能を追加した。MS1を使って保険契約を管理する代理店の営業担当者にAIが効果的な営業活動を助言する。
AIは過去の契約実績や顧客情報などのビッグデータに基づき、顧客が必要としている可能性の高い保険商品の構成などを営業担当者に推奨する。AIは顧客のニーズが変化するタイミングを見計らっており、提案するのに最適なタイミングが来ると営業担当者が使うMS1の画面にAIによる推奨がポップアップ表示される。
データから顧客のニーズを予測
「AIを活用して顧客一人ひとりのニーズを満たす提案をすることで成約確率を高めたい」。三井住友海上の中村繁保デジタル戦略部部長はMS1Brainを導入した目的をそう語る。
三井住友海上の主力商品は1年で契約が更新される自動車保険だ。これまで営業担当者は自動車保険の既存顧客に対し、契約が満期を迎える直前のタイミングで次年度の商品を提案することが多かった。既存のMS1も顧客に提案すべき特約などを推奨する機能を搭載していたが、顧客のニーズを捉えているとは言いがたかった。このため多くの顧客は「前年と同条件」を選んでいたという。
新たに導入したMS1 Brainが搭載するAIは顧客一人ひとりの状況を勘案して提案内容やタイミングを判断する。単に満期になりそうな顧客に提案するだけではない。顧客の過去約7年分の契約情報に加えて年齢や家族構成などの属性情報を分析し、「どのような条件がそろったときにどの保険商品が買われるか」を推定したうえで、成約確率の高い顧客と商品構成を営業担当者に示す。
例えば自動車保険であれば、ドライブレコーダーの使用を前提とした新しい保険商品「GK 見守るクルマの保険(ドラレコ型)」への切り替えを提案するといった具合だ。
AIは人間がこれまで着目してこなかった顧客情報を根拠に新しい商品を推奨する場合もある。例えば「営業担当者と顧客との年齢差が5歳以内」といった条件もAIによる判断材料の1つなのだという。過去の実績データから「契約を更新しなさそうだ」と推測される顧客がいる場合は営業担当者に対して事前に警告を発し、顧客ニーズに沿った別の商品を勧める。
MS1 Brainは個人向けだけでなく法人向けの保険商品にも威力を発揮する。法人向けの場合は、既存顧客への提案だけではなく新規にアタックすべき企業リストも提示する。外部から購入した企業情報を基に成約確率の高い企業をAIが割り出す。