製薬大手の武田薬品工業は2020年2月から大規模な在宅勤務に移行した。約5万人の全従業員が対象で、その9割が日本国外で勤務する。最新リモートアクセス技術の導入によって、VPN渋滞とも無縁だった。
「2020年1月に中国拠点が在宅勤務に移行したところ、VPN(仮想私設網)の利用率が急上昇した。そこでVPNに頼らないリモートアクセス手段の導入を決断した」。製薬大手である武田薬品工業のマイク・タワーズCISO(最高情報セキュリティー責任者)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務への移行についてこう語る。
武田は全世界約80カ国に拠点を置き、約5万人の従業員の9割が日本国外で勤務するグローバルカンパニーだ。それだけに新型コロナ対策に動き出すのも早かった。感染が最初に始まった中国の拠点では1月20日に感染症対策を開始。2月9日には世界の拠点で不要不急の海外渡航をすべてキャンセルした。日本では2月17日からMR(医療情報担当者)や東京本社で働く従業員を対象に在宅勤務へ移行した。さらに3月7日からは在宅勤務の対象を全世界に広げた。
同社は医療に不可欠な医薬品を製造するだけでなく、新型コロナの治療薬になり得る「高度免疫グロブリン製剤」の国際的な共同開発にも参画している。製造拠点や研究所は、従業員が出社して稼働を続ける必要がある。それでも約5万人の全従業員が自宅から勤務できる基盤を整え、医薬品の製造や研究は継続しながらも、できる限り多くの従業員が出社せずに済むようにした。同社における全世界的な在宅勤務は2020年7月現在も継続中だ。
武田は日本企業の多くが苦しんだ「VPN渋滞」とは無縁だった。同社は新型コロナの感染拡大前から「脱VPN」を推進しており、業務アプリケーションやセキュリティーシステムのクラウド移行を進めていたほか、VPNを使わずにオンプレミスの業務アプリケーションを利用可能にする「アイデンティティー認識型プロキシー」を導入する計画もあったからだ。
この技術の導入予定は2021年だったが、新型コロナの感染拡大に伴い計画を1年前倒しにした。そのため2020年3月に全世界の拠点が在宅勤務に移行した際には、VPNにほぼ頼らずに業務を遂行できるようになっていた。