キャッシュレス決済の増加に合わせて、カード各社の競争が激化している。ジェーシービー(JCB)は国内の加盟店を管理する新システムを稼働。AIを使って、加盟店の不正を見抜く業務の効率を最大100倍に高めた。
JCBは2018年8月、来店客がJCBブランドのクレジットカードで代金を支払える店舗(加盟店)の審査を支援する「加盟店管理システム」を全面稼働させた。AI(人工知能)を使って加盟店の法令違反や規約違反、過剰な広告出稿、不審な振る舞いなどを検出して、暫定的な審査を下す。
担当者はその結果を踏まえて、業績を調べたり現地調査に出向いたりして、加盟店に是正を促す。悪質な場合は加盟店契約を解除する。
JCBのカード会員数はこの10年間で約2倍に増え、2018年3月末時点で約1億1700万人に上った。加盟店は同時点で国内外合わせて約3000万店を数える。福嶋章人加盟店管理部長は「審査をおろそかにすれば安心安全を提供できない」と力を込める。
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JCBで新システムの構想が持ち上がったのは2017年春に遡る。厳格な加盟店管理を求める改正割賦販売法の施行が2018年5~6月に見込まれていたからだ。
加盟店の審査は新規契約時に実施する「初期審査」と、契約後に年1回以上実施する「途上審査」がある。初期審査についてはNTTデータのシステムを2013年に導入して効率化を図っていたが、途上審査は業務が煩雑なためシステム化を見送り、人手による作業を続けていた。
途上審査は主に「情報収集」と「審査」の2ステップで進める。インターネットから加盟店の現在の情報を収集し、社内で管理する加盟店の登録情報と突き合わせて審査する流れだ。
特に人手に頼った力業が必要だったのは前者の情報収集だった。アルバイトを含めて最大10人ほどが検索エンジンを駆使して、インターネット上から加盟店に関する情報を収集していた。作業マニュアルを整備していたが、検索キーワードの設定に文面化しにくいノウハウが必要なため慣れるまでに時間がかかり、担当者ごとに精度のばらつきがあったという。
例えば「法律で取り扱いが厳しく規制されている銃火器のような商品やサービスを扱っていないか」「店舗が移転したり閉鎖したりしていないか」といった観点で情報を収集する。「新人だと判定精度が一定水準に落ち着くまでに半年ほどかかり、皆で収集できる情報は1日当たり50~100店が精一杯だった」と、小林沙織加盟店管理部副主事は振り返る。
情報収集した後の審査も手間がかかった。全加盟店に関するデータを管理する基幹系システムの使い勝手が良くなかったためだ。ネットで収集した情報と基幹系システムで管理する情報を突き合わせようにも、「基幹系システムからデータを抽出するだけで時間がかかった」(小林副主事)。結果的に加盟店ごとにネットと基幹系システムの情報を手作業で突き合わせていく必要があった。