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意思決定を支えたDX推進組織

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 ビアリーのマーケターの意思決定を支えたのが、アサヒグループホールディングス(アサヒGHD)が2020年4月に新設したValue Creation(VC)室だ。グループ全体のDX(デジタル変革)を推進し、新規ビジネスを創出するのが目的の組織である。

 VC室が注力する分野の1つがビジネスアナリティクスだ。事業会社の個別プロジェクトにおいて、顧客を深く理解する、個別施策のROI(投下資本利益率)を見極める、経営資源の配分を最適化するなどの目的で、データを基にPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す仕組み作りを支援する。

 必要に応じて、社内プロジェクトの開始段階でVC室が伴走し、仮説設定やデータ探索、効果測定などを手伝う。以前は個々のプロジェクトで課題に対して施策を考える際、どのKPI(重要業績評価指標)をモニタリングするかといった事前の設計がなおざりにされがちだったため、今後重視したいとの考えからだ。

 そこでVC室で「グループ顧客データ分析基盤」を構築するとともに、2020年から外部のクラウド型サービスを導入した。2021年に入ってから顧客の声を素早く分析し、マーケティング施策を可視化する取り組みを進めている。SNS上の発言などを自動的に収集・分析することで、タイムラグを少なく、より精細に顧客を理解する。

 これまでも事業会社ではツイッターやLINEなどのSNSを活用したマーケティングをしてきたが、人手も手間もかかる上に施策の効果をリアルタイムで把握しづらいという課題があった。

 ビアリーの場合、店頭で消費者にビアリーを手に取ってもらうためには、これまでなじみのなかった微アルコールのようなカテゴリーやスマートドリンキングの習慣について消費者に関心を持ってもらう必要がある。

 「微アル」や「スマドリ」といった概念や取り組みを浸透させるべく、SNSでの発言数や対外的露出について個々の顧客の行動をセグメント化された集団として理解しながら、リアルタイムで把握し効果検証を実施、次の打ち手を考えた。VC室がデータを活用したコンサルタントのように事業部門と伴走することが、ビアリーのヒットを裏で支えたわけだ。

 このケースは、アサヒビールで度数3.5%以下の商品などの市場拡大を手がける新価値創造推進部と共同で発売後にマーケティングを推進した。グループを挙げてビジネスアナリティクスを本格的に取り組み始めた。

図 グループ顧客データ分析基盤
図 グループ顧客データ分析基盤
顧客理解を深め、施策のROIを見極める(アサヒグループホールディングスの資料を基に日経コンピュータ作成)
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事業会社間の壁を破るデータ基盤

 土台となるのが先述のグループ顧客データ分析基盤である。VC室はIT部門と共同で同基盤の整備を進める。2021年1月に各事業会社で保有する顧客データの連携作業にも着手した。

 グループ共通の会員サイト「アサヒWebサービス」やSNSなどの投稿といったデジタル情報、個々の商品のPOS(販売時点情報管理)や顧客の店舗での行動履歴といったリアルな情報などを集め、データ仮想化技術を使って仮想的に統合する。さらに目的などに応じて必要なデータだけを抽出し、利用しやすい形に格納した「データマート」として加工する予定だ。

 これらのデータを個々の事業会社やアサヒGHD全体のマーケティングや商品開発の高度化、最適な売り場づくりなどにつなげる。ビアリーのマーケティングを支援したビジネスアナリティクスもこの基盤の機能の1つだ。

 アサヒGHDは2014年からアサヒビールなど傘下の事業会社でビッグデータ活用を進めてきたが、「事業会社間の壁が厚く、事業会社をまたいだデータ活用やノウハウの共有が難しいという課題があった」(VC室の大江輝明シニアマネジャー)。

 データ活用推進の背景にはマスマーケティングからパーソナライゼーションへの流れがある。傘下の事業会社のターゲット顧客はそれぞれ違う。顧客一人ひとりのライフステージや健康状態に合わせたマーケティング施策のためには、グループ横断で顧客データを分析する。

 グループ共通のアサヒWebサービスなどで顧客がいつ何を買ったか、どんな告知に反応したかといった顧客データを各事業会社の中でのみで使うのではなく、グループ全体のマーケティングやブランディングに活用していく考えだ。

 将来的にはグループ顧客データ分析基盤を顧客データのみならずサプライチェーン(供給網)などについても活用できる基盤にする方針だ。せっかく商品がヒットしても、原材料などが不足して製造できなくなれば販売機会を逸する。ヒットすれば商品をすぐに補充できるような最適化を目指す。