家庭教師ビジネスのトライグループが基幹系システム刷新に挑んでいる。実は刷新は2度目。初回は「丸投げ」で失敗した。反省からアジャイルとマイクロサービスを採用。段階的に移行する考えだ。
「旧基幹系システムでは事業拡大のスピードに耐えられない。新規ビジネスを始めようにも旧システムがボトルネックになっていた」──。家庭教師の派遣や個別指導塾の運営などを手掛けるトライグループの松川顕治Try IT事業部/情報システム部執行役員は刷新前のシステムをこう語る。トライグループは今まさに2年越しで「2度目」の基幹系システム刷新に挑んでいる最中だ。旧システムから新システムへ段階的に機能を移行している。
同社が「FIST」との愛称で呼ぶ基幹系システムは、家庭教師の依頼元である生徒との契約管理や派遣する家庭教師の登録・管理、指導データの管理などの機能を備え、同社ビジネスの屋台骨を支えている。歴史は古く、最初に稼働したのは2005年に遡る。2013年には個別指導塾の運営に関する機能を追加した。
旧システムのアーキテクチャーは全体が1つのソフトウエアモジュールで構成された「モノリシック(一枚岩)」と呼ばれるものだった。古いシステムにはよく見られる特徴だ。各機能が密接に結び付いているため、ある機能に変更を加えようとすると、他の機能への影響調査やリグレッション(回帰)テスト、リリース時期の調整などに時間がかかる。
トライグループもモノリシックだった旧システムに改修と機能追加を重ねてきた。そのため、「1つの機能を改修しようとすると様々な箇所に影響が及んだ。改修がままならない状態だった」(松川執行役員)。
そこで2016年4月、基幹系システムの刷新に着手した。ところがプロジェクトは頓挫してしまう。
旧システムの開発ベンダーとは異なるITベンダーに刷新を委託したが「意思疎通がうまくいかなかった」(同)のが大きな原因だ。トライグループの情報システム部門はシステムの企画やプロジェクト管理を担当し、実際の開発作業はITベンダーに委託していた。
同じ失敗は繰り返さない──。そう誓った松川執行役員は2018年4月、基幹系システムの刷新プロジェクトを再始動させることにした。
いの一番に着手したのはITベンダーに丸投げしていた開発体制の見直だ。ITベンダーに全てを任せるのではなく、自社もプロジェクトに積極的に参加し、ともにシステムを作り上げる体制が重要だと、前回の失敗で学んだからだ。
松川執行役員はプロジェクトのメンバー集めに奔走した。自ら有望なITベンダーを探し、そのエンジニアと面談して新システムやプロジェクトの構想を説明。賛同してくれたエンジニアが所属するITベンダーに準委任契約で開発を依頼した。
こうしてSRAやアクアシステムズからのエンジニアと、フリーランスのエンジニアの合計約10人が集まった。松川執行役員は当時を「ITベンダーを選ぶというよりも仲間探しをしていた」と振り返る。