水道メーターを製造する老舗が自動検針の仕組みを開発した。LPWAを使って地中のメーターと通信し、水道使用量を把握する仕組みだ。追加コストを極力抑える工夫を凝らし、新たな事業モデルの創造に挑む。
多くの家庭のポストに定期的に入れられる1枚の紙。切手が貼られることもないその紙は、作業員が1軒1軒回り、ポストに入れたことを示す。水道の使用量を知らせる検針票だ。この検針票の姿が変わるかもしれない。
仕掛け役は水道メーター大手の愛知時計電機だ。既存の水道メーターをスマートメーターに変えるアタッチメントを開発。低速ながら消費電力量が少なく低コストが特徴のLPWA(ローパワー・ワイドエリア)でネットワークにつなぎ、水道使用量を自動送信する。2018年1月に先行開始した取り組みでは、約90%の成功率で水道使用量を計測できた。
時計からメーターまで
愛知時計電機は1898年に創業したメーター製造大手だ。祖業は壁掛けの振り子時計(ボンボン時計)。早稲田大学大隈記念講堂の塔時計は1927年に同社が手がけたものだ。時計製造で使う歯車技術を生かして1927年に水道メーターの製造を開始。1950年にはガスメーターの製造を始めた。現在は売上高の8割以上をガスメーターと水道メーターを中心とした事業で稼ぐ。水道メーターでは最大手だ。
ただ、国内向け水道メーターの事業は今後成長が見込みにくい。2014年以降、同事業の売上高は150~160億円で横ばいが続く。国内は既に5000万程度の水道メーターが稼働しており、8年間に1度の更新需要が中心だ。「特に人口減となる国内を考えた場合、ハードウエアを製造・販売し、更新需要に応えるだけでは売り上げは伸びないという危機感があった」と経営企画室長でLPWAプロジェクトチームの河上智洋リーダーは話す。
祖業を生かしつつ、ハードウエア製造だけに頼らない事業は何か―。検討の末に目を付けたのが「データ」だった。ガスメーターなどで先行している自動検針を水道メーターにも応用し、データを中心としたデジタルビジネスを興せないか。そう考えた河上氏は2016年から調査を始めた。
水道は検針コストが最も高い
水道の検針にかかる手間とコストは、水道事業を運営する全国の自治体にとって悩みのタネだ。自治体から委託を受けた検針員が契約者の自宅を回り2カ月に1回検針をする。しかも水道は「電気やガスと比べ検針しにくく、コストが最も高い」(河上氏)。
例えば一軒家であれば、水道メーターは地中に埋まっているケースが多く、ひと目では場所が分からない。電気メーターは玄関横、ガスメーターは家の裏にあることが多く、探しやすいのとは対照的だ。場所が分かっても、地中にあるため、その上に自家用車が駐車してあって検針ができないケースもある。この場合、契約者が留守であれば日を改めて再訪するほかない。
多くの自治体はメーターの場所や利用者の在宅時間などを把握している熟練の検針員に頼っている。だが「検針員の高齢化が進み、検針員の確保も大変になってきている」(河上氏)という。
ならば、検針を自動化するサービスを自治体に提供できれば、新たな事業を生み出せるのでないか。そう考えた同社が注目したのが、水道使用量というデータだった。「我々は水道メーターというハードウエアを毎年約200万台製造している。社会インフラを支えるハードをこれほどの規模で製造する企業は珍しい」(河上氏)。その強みを生かした事業こそが、通信機能を持ったスマートメーターによるデータ収集のサービスだ。取得したデータは高齢者の見守りや漏水検知にも活用できる。
水道メーターの自動検針という発想自体は以前からある。例えば東京都は1970年代から有線やPHSを使った無線による自動検針を一部地域で試験運用してきた。だがPHSの無線は通信成功率が低く、特に地中に埋まる水道メーターとの相性は悪い。電源の確保もハードルとなり、部分的な導入にとどまっている。有線の場合は配線の確保が難しいなどの課題があった。