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既存案件の変更業務をロボット化

 さらに、ロボットポータルサーバー導入の前段階として、国内リース事業分野の主要業務を担うロボットを開発した。主要業務は、最終的に東京センチュリーの基幹システムである「DYNASS」への入力に行き着く。

 ロボット開発に先立って、DYNASSへの入力実態を洗い出した。その結果、新規リース案件に伴うものは約3割にすぎず、約7割を既存リースの変更処理に関わる入力が占めると分かった。営業現場にとっては新規案件よりも、むしろ既存案件の変更手続きなどに時間を取られていることが判明したのだ。

 そこで、この部分を先行してロボットに置き換えることにした。既存案件業務のうち、件数が多いものを「設置場所変更などの軽微修正」「解約」「転リース」などの7つに分類。IT推進部がそれぞれの事務処理を代行するロボットを開発した。

 東京センチュリーは顧客向けに「契約情報提供サービス(LINCS=リンクス)」と呼ぶツールを提供している。顧客が設置場所変更申請をする場合は、顧客がその場所をLINCS上で入力する。この入力内容をそのまま基幹システムに反映できれば人手はかからないはずだ。だが現実には入力内容が正しいとは限らない。住所を間違えていたり書式が異なっていたりしていることも多い。担当者はこれらをチェックして基幹システムに反映するのに労力がかかっていた。

 そこでロボットを使って、住所が正しいかどうかを自動チェックするようにした。正しくない場合は担当者にメールで警告を出して修正を促す。

 一方で、各営業現場には部署ごとに1人「ロボットアンバサダー」を置いた。ロボットアンバサダーは部署で開発したロボットをユーザーが試用して感じた問題点や課題などの声を集めて、IT推進部に提出する。IT推進部は週に1回の会議を主催し、課題を受けた改善内容をロボットアンバサダーに伝える。こうした地道な取り組みでRPAに対する納得感を醸成していった。

 実際、社内調査によれば「基幹システムによる大量入力処理の負担が軽くなった」「繰り返し入力処理の負担が軽くなった」といった好意的な意見が多く寄せられたという。さらに「ロボットが処理している間に他の作業ができるようになった」という意見も多かった。

 IT推進部の高橋真路開発第二グループマネージャーは「RPAで定量的な作業削減効果が出るのは当然だが、他の作業ができるようになったという定性的な効果を現場が認識しているのはいいことだ」と手応えを感じている。

東京センチュリーのRPA推進メンバー。左からIT推進部の高橋真路開発第二グループマネージャー、山口修部長、長良紀宏開発第二グループ次長(画像提供:東京センチュリー)
東京センチュリーのRPA推進メンバー。左からIT推進部の高橋真路開発第二グループマネージャー、山口修部長、長良紀宏開発第二グループ次長(画像提供:東京センチュリー)
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ガイドラインで現場主導開発促進

 並行して、全社汎用ロボット以外については、現場主導で要件定義してRPAロボットを開発できる仕組みを作った。IT推進部はそのためのガイドラインを用意した。

 ガイドラインには「環境依存」「障害発生」「ブラックボックス」「セキュリティー」の4つのリスクを明記し、部署がそれぞれのリスクに対応するルールになっている。例えば障害発生リスクについては「RPAがなくては業務が停止する状態や、誤った際に人が取り消しできない操作は避けてください。必ず手動運用フロー・回避策を用意してください」とある。

 ブラックボックス化防止については、「業務プロセス見える化シート」「仕様書」を作成し、現場とIT推進部で共有する。見える化シートには業務手順に加えて、業務の発生頻度や所要時間などを明記し、効果を算出しやすくしている。仕様書にはフローチャートと画面遷移図を盛り込む。

 現場開発ロボットでよくある事例の1つが、営業活動の材料とするための情報収集ロボットだという。官公庁向け営業担当者なら、自分が担当する地方自治体でリースの調達・入札案件が発表されていないか、Webサイトを巡回する。自治体のWebサイトは数百以上あるので、ロボットによる情報収集が有効だ。新規の入札案件を抽出するほか、例年特定の時期に出るはずの入札案件が発表されていない場合に自動的に警告を出して、問い合わせのきっかけにする。官公庁向けだけではなく、大規模施設向け営業活動でも、同様に調達情報が出ていないかをロボットで自動巡回して、営業活動の材料とする。

 人事部門は「採用面接ロボット」を開発した。採用面接をする際に、面接官を担当する社員数人に応募者の資料を配布する。付加価値を生むわけではないが、必要不可欠な作業だ。前回の面接を踏まえた「面接申し送りシート」や、応募時の「エントリーシート」「大学履修履歴表」に加えて選考過程で実施した「職務適性検査」「一般適性検査(SPI)」などを応募者ごとにひとまとめにして、面接担当社員に配布する。ロボットは社内フォルダーや採用ポータルサイト、検査業者のサイトなどからこれらの情報を自動収集し、縦横や大きさなどをそろえて印刷する機能を備える。技術的な難しさはないが、これによって大幅に手間を削減できているという。

図 人事部の採用業務に使うロボットの例
多数の文書の整理をロボットで自動化
図 人事部の採用業務に使うロボットの例
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(写真提供:東京センチュリー)
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 東京センチュリーは基幹システム処理から日々の営業活動や採用活動まで、あらゆる分野でRPAを活用している。今後も、現場のニーズに応じてRPAの活用を増やしていく方針だ。