全3659文字
PR

高炉の重大トラブルを予兆の段階で検知し、数億円の損害を回避する――。JFEスチールは1000個のセンサーを使い、高炉の仮想モデルを開発。実効性の高いデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現した。

西日本製鉄所(広島県福山市)の製鋼工程(写真提供:JFEスチール)
西日本製鉄所(広島県福山市)の製鋼工程(写真提供:JFEスチール)
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 経済産業省の「DX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄2020」を受賞したJFEホールディングス。評価された取り組みには、グループの中核企業であるJFEスチールのDXがある。

 JFEスチールは製鉄所の安定操業を図り、既に2つのDXを実現している。高炉のデジタルツインと、製造拠点の設備保全の人工知能(AI)検索システムだ。

 前者のデジタルツインは、高炉の内部の状態をシミュレートする仮想モデルである。高炉は鉄鉱石やコークスなどの原料から粗鋼の前段階となる銑鉄(せんてつ)を作る設備で、内部は2000度ほどに達する。高温のため炉の内側にセンサーを取り付けることができず、内部の状態は推測するしかない。いわばブラックボックスだ。

 デジタルツインは炉の外部に付けたセンサーから情報を得て内部の状態を推定。異常の予兆を検知すると運転員に通知する。2019年11月までに、国内にある全8基の高炉へ導入した。それ以降、「重大なトラブルが大幅に減少した」(河村和朗データサイエンスプロジェクト部長)という。

 後者のAI検索システムは製鉄から圧延、メッキまで製鉄所の全製造ラインの故障報告書やメンテナンスマニュアルを蓄積している。故障が起きたとき、関連する過去の故障報告書などを探して運転員に提示し復旧を早める。2018年9月までに国内全6カ所の製鉄所、製造所に導入したところ、設備故障からの迅速な復旧などの成果につながったという。

 JFEスチールがこうしたDXの検討を始めたのは2015年に遡る。社内にある大量データの活用を広げるための準備会議を立ち上げた。2017年にはデータ活用の技術開発や実用化を担う専門部署「データサイエンスプロジェクト部」を設け、デジタル技術による業務変革を推進してきた。

 2018年度からは中期経営計画で、DXを経営課題の解決を推進する施策の一つと位置づけ、取り組みをさらに加速させた。

図 高炉のデジタルツインと設備保全のAI検索システムのスケジュール
図 高炉のデジタルツインと設備保全のAI検索システムのスケジュール
2つのDXを実現
[画像のクリックで拡大表示]

 以下では、デジタルツインとAI検索システムについて機能や開発の経緯を見ていく。

[画像のクリックで拡大表示]