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 削足適履(さくそくてきり)という四字熟語がある。「足を削りて履(靴)に適せしむ(合わせる)」と読み下し、強引に事を進めることを言う。今ではほとんど使われないが、全社的な業務改革や基幹系システムの刷新の際に、この言葉を使う経営者がいる。

 例えば日本航空(JAL)の植木義晴会長。植木氏は日経コンピュータ4月12日号の特集「JALの逆転劇」中のインタビューで、50年以上使い続けた基幹系システムを全面刷新した際の経営判断やリーダーシップを語っている。そのインタビューの詳細版がWeb媒体の日経 xTECHに掲載されているが、植木氏が「靴に合わせよ」と言ったエピソードが登場する。

 スペインのアマデウスが提供する航空向けクラウドの全面採用に踏み切った際、植木氏は社内で次のように話した。「靴に足を合わせなさい、としつこく言いました。自分の足に靴を合わせたらあかんと。できものの靴に自分たちの足をどう合わせるか。規定だけではなく、考え方や仕事のやり方から変えていかないと」。

 靴とはクラウドのことであり、足は自社の業務のことだ。つまり「システムに業務を合わせよ」というわけだ。基幹系システムの刷新の際、日本企業の多くは既存の業務にシステムを合わせようとするが、それではプロジェクトの完遂は難しくなる。植木氏はそれを強く戒めたわけだ。

削足適履の本来の意味

 もっと強く「靴に合わせよ」と言ったのは中国の華為技術(ファーウェイ)の創業者、任正非CEO(最高経営責任者)だ。ファーウェイはネットワーク機器やスマートフォンを中心に急成長を遂げた。その軌跡を記した『最強の未公開企業 ファーウェイ』(東洋経済新報社刊)に、グローバル企業に飛躍するために実施した業務改革のエピソードが掲載されている。

 任氏は「我々は『米国の靴』を履く」と宣言したうえで、従業員に対して「自分の足を削って履物に合わせよ」と厳命したという。米国の靴とは、米国のコンサルティング会社などから学んだ経営管理手法であり、自分の足とはもちろん従来の業務のことだ。

 ファーウェイと言えば、任氏が人民解放軍出身であることもあり、米国政府や議会から警戒され、米国市場から締め出されている。だが米国のコンサルティング会社に言わせれば、米国の靴を履きこなした自慢の弟子なのだ。

 実は、削足適履の本来の意味では、足を削る取り組みは愚かな事とされる。削足適履の出典元である中国の古書『淮南子』では、「手段のために目的を害するのは、足を削って履に適せしむようなものだ」とある。本来の意味に即して言えば、システムは手段であり業務が目的なのだから、業務をシステムに合わせるのは愚かな事で、足を削って靴に合わせるようなものだという言い方になる。

 実際、業務改革を伴うシステム刷新では、必ずと言ってよいほど利用部門から「システムは手段であるはずなのに、なぜ自分たちの業務を変えてシステムに合わせなければならないのか」といった不満の声が上がる。もし利用部門が削足適履という四字熟語を知っていれば、「足を削って靴に合わせるようなものだ」と言って、強く反対するに違いない。

 にもかかわらず、経営者が「足を削って靴に合わせよ」とあえて号令するのは、システムは手段とはいえ、その中に目指すべき業務の理想形が備わっていると認識しているからだ。出典元の淮南子は、あるがままを尊ぶ老荘思想の強い影響を受けているという。あるがままではいられない困難なプロジェクトでは、経営者の強い意思とリーダーシップが不可欠である。

木村 岳史(きむら・たけし)
木村 岳史(きむら・たけし) 編集委員。1989年日経BP社入社。日経ネットビジネス副編集長を経て2010年に日経コンピュータ編集長。13年1月より現職。本誌と日経 xTECHにIT業界やIT部門の問題点を斬る辛口論評を執筆中。