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 基幹系システムの刷新は、追い込まれないとできないものだ。

 日経コンピュータが主催する表彰制度「IT Japan Award 2018」でグランプリを受賞した日本航空(JAL)は、実に50年ぶりの基幹系システムの刷新を果たした(2018年8月2日号70ページ参照)。以前のシステムは随分前から老朽化が進んでいたにもかかわらず、刷新を先送りにしてきた。結局、刷新に踏み切るのは経営破綻という試練に直面してからだった。

 50年間も使い続けたJALの事例は極端だが、他の企業も基幹系システムを10年、20年と使う。2年前のI TJapan Award 2016でグランプリを受賞した野村証券の基幹系システム刷新の事例でも、従来システムを30年にわたって使い続けていた。

 基幹系システムを長く使えば老朽化が進む。一概に老朽化と言っても厄介なのはソフトウエアの方だ。ハードウエアは耐用年数に達すれば、どんな企業でも更新に踏み切る。更新はそれほど難しくない。ソフトウエアはどんなに時間が経過しても、ハードウエアとは違い壊れることがないから、いつまでも使い続けてしまうことになる。

 その間、利用部門の要求に応じてソフトウエアを何度も改修する。ソフトウエアは複雑化して「コードのスパゲティ化」が進み「田舎の温泉宿」と呼ばれる状態になる。全体構成が複雑になり、変更時に手間がかかるようになるわけだ。これがソフトウエアの老朽化だ。基幹系システムは利用部門からの改善要望が多く、法制制度などの変更にも対応しなければならないため、老朽化はより深刻な問題となる。

 大手保険会社のCIO(最高情報責任者)が以前嘆いていた。プログラムコードを1行変えるだけでも、その影響の調査に2カ月もかかったとのことだ。JALの場合も、2005年に航空連合「ワンワールド」に加盟した際、マイレージ提携などワンワールドの標準サービスを基幹系システムに導入する作業に、テストだけでも1年以上かかったという。

経営の甘い判断を正すべし

 そこまで深刻ではないにしても、基幹系システムの老朽化は多くの企業に共通する問題だ。放っておくとシステムの改修に余計なコストがかかり、人的リソースや時間を浪費する。さらに中堅中小企業や一部の大企業は、システムを改修できるのがごく一部の技術者に限られるという問題も抱える。一刻も早く基幹系システムの刷新に踏み切らなければいけないのは、JALや野村証券といった一部企業に限られる話ではない。

 老朽化した基幹系システムは、今や日本企業にとって最大の経営課題となったデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも暗い影を落とす。新たなデジタルサービスを作り出す際に、基幹系システム側の対応が半年、あるいは1年もかかるようでは話にならない。全社的なデジタル変革を推進する際にも、従来の業務を支える基幹系システムの存在は桎梏だ。

 多くの企業で老朽化した基幹系システムが放置され続ける理由は何か。おそらく「問題なく動いているのだから、巨額のコストをかけてシステム刷新を急ぐ必要はない」との甘い経営判断があるからだろう。ITに詳しくない経営者は老朽化の意味もその影響も分からない。

 IT部門は今こそ「DXやイノベーションの推進のためにも基幹系システムの刷新が必要」との声を経営に届けなければならない。JALや野村証券にグランプリが贈られたのは、困難なプロジェクトを完遂したからだけではない。他の企業も一刻も早く経営主導で基幹系システム刷新に乗り出してほしいとのメッセージでもある。