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 新型コロナウイルス禍が収束の気配を見せない。開発中のワクチンに高い有効性が確認されたとの報道が相次いでいるのは明るい兆しだが、足元では感染者が増えており、感染拡大の第3波の様相を呈している。

 こうした事態を受けて、企業はテレワークの比率を再び高めるなど感染防止対策に追われている。DX(デジタル変革)の手綱も緩めるわけにはいかない。特に新型コロナ禍の直撃を受けたサービス業では、ビジネスモデルそのものを変革しない限り生き残れないとの悲壮感も漂う。

 「危機的状況でこそ変革が可能になる」とはよく言われることだ。このままでは生き残れないのが見えている以上、組織や人は本気で変革に取り組むというわけだ。真理ではあるが、当事者にとって厳しい現実でもある。DXに取り組まなければならないのは分かっているが、何をどうすれば生き残れるのかが見えない。そう思い悩むビジネスパーソンは多いことだろう。

 この件で気付きになるような話を、調査・コンサルティング会社アイ・ティ・アールの内山悟志会長から聞いた。「デジタルを『手段』ではなく『前提』として考えるべき」というものだ。DXというと「デジタルを活用した変革」つまりデジタルを手段と捉えるのが一般的だが、むしろ「デジタルを前提とした変革」と捉えるべきというわけだ。

 私はこの話を聞いて、なるほどと思った。「デジタルを活用する」ところからDXを検討すると、どうしてもシーズからの発想になる。「AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用して何かをやろう」といった具合だ。その結果「何かやろう」の「何か」がいつまでたっても見つからないということになりかねない。

 一方、「デジタルを前提にする」とは顧客のニーズから発想するということだ。新型コロナ禍により、企業も個人も仕事や生活でデジタルへの依存を強めている。つまり、デジタルを活用したサービスなどへのニーズは急速に広がり変化していると想定される。だから、デジタルを前提にした顧客のニーズを探れば、新たなビジネスの糸口を見つけられる可能性がある。

あり得なかったビジネスが成立

 内山氏の話を聞き、こんなことを考えていたのだが、実際に最近それを実証するような事例が出てきた。

 エンターテインメント産業は、ゲームなど巣ごもり需要にわく一部の企業を除けば、総じて厳しい状況に追い込まれている。テーマパークやプロスポーツ、音楽コンサートなどは、いわゆる「三密」が避けられないため、興行を中止したり客数を減らしたりするしかなく、苦しい状況が続く。

 ところが「こんな興行が成立するとは思わなかった」と関係者も驚く「新」ビジネスが急速に立ち上がっている。人気グループ嵐など有力アーティストの無観客コンサートのライブ配信である。コンサートに足を運べなくなり「お金を払ってでもライブ配信を見たい」とのファンが急増したことで、興行として成立するようになった。

 無観客コンサートは警備費などを削減できるためコストが安い。しかも通常のコンサートは会場の収容人数に制約されるが、ライブ配信だといくらでも観客を増やすことができる。想定外の売り上げと利益率の高さを目の当たりにして、「もう以前のやり方に戻したくない」と話す関係者もいると聞く。もちろん新型コロナ禍が収束し、以前のやり方、つまり観客を入れるコンサートに戻しても、有料のライブ配信は大きな収益源であり続けるだろう。

 同様のことは他の産業でもあり得る。デジタルを前提に顧客ニーズの変化を探れば、ビッグビジネスを次々と掘り当てられるかもしれない。

木村 岳史(きむら・たけし)
木村 岳史(きむら・たけし) 編集委員。1989年日経BP入社。日経ネットビジネス副編集長を経て2010年に日経コンピュータ編集長。13年1月より現職。本誌と日経クロステックにIT業界やIT部門の問題点を斬る辛口論評を執筆中。