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 東京証券取引所の宮原幸一郎社長が2020年11月30日付で辞任した。10月1日に起きた大規模システム障害で売買を終日停止した責任を取った形だ。東証などを傘下に収める日本取引所グループ(JPX)の指名委員会や取締役会では解任の必要はないとしていたにもかかわらず、宮原氏が自ら責任を取って辞任したという。

 宮原氏はなぜ辞任を決断したのだろうか。まだ真相は明らかになっていないが、私はその判断に釈然としないものを感じる。そもそも辞める必要がないにもかかわらず辞任するのは筋が通らない。自らの出処進退も含め経営者の決断や行動は論理的でなければならないと私は思う。ましてシステム障害に起因する辞任だけに、ITガバナンスの在り方に関わる問題でもある。少し掘り下げて考えてみたい。

 今回のシステム障害における東証の問題点は次の2つに整理できる。1つは、障害の原因となったNAS(Network Attached Storage)に関して必要なテストを実施していなかったために設定ミスに気付かず、バックアップのNASへの自動切り替えができなかったこと。もう1つが、証券会社との間で取引の再開ルールが未整備であったため、NASの切り替えに成功したにもかかわらず、終日の取引停止を決断せざるを得なかったことだ。

 前者の問題については、大本の責任は富士通にある。もちろんテストを実施、あるいは要求しなかった東証の責任も免れない。しかし、この手の切り替え失敗は比較的よくあることであり、今回の障害では午前9時26分の段階で強制切り替えに成功し、いつでもシステムを再起動できる状態にあった。従って「大した問題ではない」とまでは言わないが、東証の経営責任が厳しく問われるような事案ではない。

取引の終日停止は正しい判断

 後者の問題については、東証の経営責任が厳しく問われなければならないのは確かだ。ただし、システム障害発生時点の東証の経営陣の対応は十分に合格点だった。終日停止の決定は、証券会社との間で取引の再開ルールが未整備である以上、予期せぬトラブルが連鎖し株式市場に大混乱が生じるのを避けるために正しい判断だった。事態を悪化させずに極小化するダメージコントロールとして評価してよい。

 一般投資家への情報開示が遅れたという問題点はあったものの、当日に宮原氏ら経営陣による記者会見を開き、記者の質問に正対して、原因などの情報を正しく伝えようとした点も評価できた。日経電子版サイトの動画中継を視聴したIT関係者からも、経営陣がシステムをきちんと理解して話していることや、システムの現場に責任を押し付けていない点などを称賛する声が多数上がっていた。

 とはいえ、取引の終日停止を決断せざるを得ない状況を生み出したのは東証自身だ。証券会社との間で取引の再開ルールが未整備のまま放置していたのは、経営としての重大な落ち度である。東証は社内手順の範囲ではBCP(事業継続計画)を整備していたはずだが、証券会社などとの間では、システムを相互に接続して密接に連携しているにもかかわらず、全体を包含するBCPに抜けがあったわけだ。

 それでも社長辞任が正しい責任の取り方かと言うと、それは話が違う。そもそも取引の再開ルールが未整備なのは歴代の社長や経営陣の不作為でもあり、宮原氏や現在の経営陣だけが責任を負う話ではない。ここは社長を続投して、システムの再起動の手順や取引の再開ルールなどについて、証券会社ら市場関係者と取り決めるべきだった。自ら汗をかくことが、正しい経営責任の取り方だったと思うのだが、いかがだろうか。

木村 岳史(きむら・たけし)
木村 岳史(きむら・たけし) 編集委員。1989年日経BP入社。日経ネットビジネス副編集長を経て2010年に日経コンピュータ編集長。13年1月より現職。本誌と日経クロステックにIT業界やIT部門の問題点を斬る辛口論評を執筆中。