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 「もう手遅れかもしれないが、このままでは2025年から2030年にかけて日本企業の8割が崖から転落する」。不気味な見通しを語るのはITコンサルティング企業、アイ・ティ・アール(ITR)の甲元宏明プリンシパル・アナリストである。

 その理由はITインフラのクラウド移行が進まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の鍵となるクラウドネーティブ・アプリケーションの開発が遅々として進まないこと。「クラウドネーティブ・アーキテクチャーの設計スキルを持つ技術者の育成が急務。現状はせいぜい数千人で国内IT技術者の1%にも満たない」(甲元氏)。

 甲元氏の仕事はIT部門のインフラ担当者に向けて、クラウドネーティブ・アーキテクチャーへの道案内をして、挑戦してもらうことだ。「クラウドネーティブの環境が整ってきた。挑まない手はない」(甲元氏)。

 しかし「現実を見ると驚くことに大企業の3分の1はマイクロサービスなどクラウドネーティブ技術を知らなかった。パブリッククラウドを一部で利用していてもクラウド活用戦略をはっきり決めているところは一握り。IT業界側も従来技術を使い続けてもらったほうがもうかるからクラウドネーティブ技術の習得と利用が進まない」(甲元氏)。米ガートナーの指摘である「日本はクラウド利用で米国から7年以上の遅れ」に納得がいくという。

 業を煮やした経済産業省は2018年9月、「ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」(通称はDXレポート)を出し、クラウドネーティブへの移行を次のように促した。

 「2025年の崖から落ちないためには、ユニークなアイデアを実現するためのアプリケーションを迅速に新規開発する、あるいは既存アプリをDXに活用できるものに再構築する変革が必要で、アプリをクラウドネーティブにすることが最も有効である」

2023年までに5億本のアプリ開発

 IDC Japanの入谷光浩ソフトウエア&セキュリティ・リサーチマネジャーはクラウドネーティブ・アプリケーションについて次のように話す。「現在世界の企業で稼働しているアプリケーションは5億本。これは60年かけて開発された。今後は2023年までに新たに5億本が開発され、配備される。新規開発5億本のうち9割以上がクラウドネーティブになる」。

 入谷氏は続ける。「考えもつかなかったアプリケーションやサービスが生まれ、第2、第3の米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーが次々と登場する」。DXとは新しいアプリケーションを作り、それをベースに新サービスや新製品を素早く展開すること。従来のアーキテクチャーや開発手法では要求に応えられずイノベーションが起こせない。

 入谷氏によるとクラウドネーティブ・アプリケーションの開発は、マイクロサービス・アーキテクチャーの上でAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)やコンテナ、サーバーレスといった方法を使い、リポジトリーに格納されたソースコードやデザインを再利用・再活用して進める。アジャイル開発やDevOpsを採用し、アプリケーションのライフサイクルは非常に短くなる。「ウオーターフォール開発に比べ50倍の頻度でアプリケーションを更新できる」(入谷氏)。

図 クラウドネーティブ開発の実現技術
図 クラウドネーティブ開発の実現技術
マイクロサービスアーキテクチャーが土台に(出所:IDC Japanの資料を基に作成)
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