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 「2人の現IBM上級幹部2人の前IBM上級幹部を被告とする集団訴訟が始まった。この問題を調査するために取締役会は特別委員会を設置した」

 米IBMが2022年7月、米SEC(証券取引委員会)に提出した2022年度第2四半期業績報告書(フォーム10-Q)の「偶発事象」の中でこう報告した。

不正に株価を操作したと訴えられる

 2022年4月5日、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所で、IBMと現CEO(最高経営責任者)、前CEO、現CFO(最高財務責任者)、前CFOの4人の上級幹部を被告として、連邦証券法違反の集団訴訟が開始された。原告は2017年4月から2021年10月までの期間において、(クラウドやアナリティクスなどの)「戦略的重要事項」の売上高が誤って分類された、と主張している。その結果、株価が動き、上級幹部は高額なボーナス報酬を不正に得たとして、裁判で証明される(不正に取得した)金額の損害賠償を原告は求めている。

 集団訴訟が始まる11日前の3月25日、IBMが取締役会での調査を要求する株主要求書を(株主代表の弁護士から)受け取り、上記の疑惑を調査するために独立取締役で構成する特別委員会を設置したことも報告されている。

 原告が連邦地裁に提出した申立書を読み解いてみよう。まず、IBMの上級役員の「AIP(株式以外のインセンティブ報酬)」を決める際に、従来は全売上高の成長率を指標としていた。だが、ジニー・ロメッティ氏がCEOを務めた時期は21四半期連続マイナス成長となり、これではAIPを受け取れない。

 そこで2015年、AIPを決める指標を全社の成長からクラウド、アナリティクス、モバイル、セキュリティー、ソーシャル(CAMSS)で構成される戦略的重要事項の売上高拡大に変更した。

 全売上高に占める戦略的重要事項の比率は、2015年から四半期決算時に公表されるようになった。当初は27%だったが最後の公表となった2018年は50%へと拡大。これを投資家が好感し株価も上昇した。この結果、ロメッティ氏は2015年から退任する2020年まで、毎年410~500万ドルのAIPを受け取った。

 ところが申立書によれば、メインフレームとそれに関連する売上高から数十億ドルを戦略的重要事項に付け替えし、CAMSSの売上高にげたを履かせる会計原則違反があった。2019年からロメッティ氏は戦略的重要事項を指標に使うことを止めたが、メインフレームからCAMSSへ付け替える不正は2021年10月まで継続されたという。

 日本IBMの営業出身のITコンサルタントによると、売上拡大を図る戦略製品や開拓すべき市場を設定し、「営業担当者に対しニンジンをぶら下げる、つまりインセンティブ報酬の比率を高くして拡販させるのはよくある」。

 同氏は次のように解説する。「だが、CEOやCFOは末端の営業に留まらず、アカウント責任者など約5000人といわれる上層部にまで、戦略的重要事項を推進させる報酬プランを用意し、それに従わせることで計画を成功させ、株価が上昇するよう仕組み、報酬を得た。だから訴えられた」。

複数の訴訟の経過を報告

 175カ国以上に顧客を持つIBMはビジネス遂行の過程で発生する様々な請求や要求、訴訟、調査、税務問題および訴訟手続きに原告または被告として関与する場合があり、その概略をフォーム10-Qに記載している。直近では、英国の保険会社と英IBMとの訴訟、IBMと米グローバルファウンドリーズとの訴訟、IBMの企業年金についての集団訴訟、IBMと米キンドリルが絡んだ米BMCソフトウエアとの訴訟、などの経過が記載されている。

北川 賢一(きたがわ・けんいち)
北川 賢一(きたがわ・けんいち) 新聞社・出版社を経て、1983年から日経コンピュータ記者。日経ウォッチャーIBM版と日経情報ストラテジーの2誌を創刊し、編集長を務める。現在は日経クロステック兼日経コンピュータ編集