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 「クラウドはITのデリバリー革命である。クラウドでデータセンターが産業化・工業化すると『ソリューション提供』や『システム構築』は死語になる。顧客が最終的にほしいものがクラウドからデリバリーされるからだ」

 これは日本IBMの技術理事であった故中島丈夫氏の予想である。発言の時期は2008年。『クラウドが5年後にIT市場の4割に』という記事(日経ソリューションビジネス2008年12月15日号)で紹介した。

ソリューションや構築は死語にならず

 それから12年、ソリューション提供やシステム構築は日本で死語にならず、逆にそれらの部品のようにクラウドは扱われている。ガートナージャパンの亦賀忠明ディスティングイッシュト・バイスプレジデントは指摘する。

 「クラウドは従来の手組みによるシステム構築や運用を根本から変える可能性を持つ。ところがパブリッククラウドを採用したシステムの準備をSI(システムインテグレーター)に丸投げする日本企業が今でも驚くほど多い。クラウドをシステム構築の部品あるいはインフラの時間貸しのようなものと捉えているSIと、その提案を唯々諾々と受け入れるユーザーがクラウドの真の活用を阻んでいる」

 真の活用とは何か。「本物のクラウドは『サービス部品の集合体』。クラウドの上に何かを作るというより、中にあるサービス部品を利用する。この点への理解と作法が足りない」(亦賀氏)。

 同じ問題をクラウド関連のコンサルタント、中井雅也氏は「ミドルウエアより上位の環境を提供するPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の利用が日本で進まない。自社内にあるVMwareサーバーの代替としてクラウドを使うことに終始している」という言い方で指摘する。

 「これではメガクラウドが提供する、機械学習など人工知能(AI)、ハイパフォーマンス/量子/エッジ・コンピューティング、ビッグデータ、アナリティクス、モバイル、セキュリティー、データベース、コンテナなど、多様化・高度化するサービス部品を使えない」

今すぐにスタイルチェンジを

 ガートナーは2030年以降に「ニューワールド」が来ると予想している。その肝はスタイルチェンジにある。システムの作り方、インフラ、エンジニア、ビジネス、組織まで、あらゆるスタイルが変わる。「スタイルチェンジができないとビジネスにメリットを出せない」(亦賀氏)。

 日本の場合、多くの企業がSIの勧めもあって、時間と手間とコストをかけ、現行システムをクラウドへ引っ越しし、リフォームしようとしている。しかし、取り組むべきは新築工事をクラウドネーティブなスタイルにチェンジすることだ。

 「Kubernetesを使いこなすまでに3年、DevOpsをチームでやるには5~7年かかる。それでも踏み切れば10年などはあっという間だ。すでに米企業の情報インフラはクラウドネーティブになっている」(亦賀氏)。

 どうすべきか。亦賀氏は助言する。「まず時間を稼ぐこと。現行システムは安定稼働を優先し、“戦略的塩漬け”にする。そして新築の準備に時間をかける。これは後ろ向きのスタイルではない。重要なシステムの安定稼働なくして未来へフォーカスできない」。

 亦賀氏は付け加える。「本物のクラウドを活用可能な運転免許を早く取得すること。米国のユーザーにはITのF1レーサーがたくさんいる。日本の経営者はクラウドやITを軽んじてはならないことにいい加減気が付かないといけない。『うちにはわかる人がいないから』と言っているうちに、ビジネスそれ自体を動かせなくなる」。

北川 賢一(きたがわ・けんいち)
北川 賢一(きたがわ・けんいち) 新聞社・出版社を経て、1983年から日経コンピュータ記者。日経ウォッチャーIBM版と日経情報ストラテジーの2誌を創刊し、編集長を務める。現在は日経クロステック兼日経コンピュータ編集