文章や音声を通じて自動的に人間と会話するITサービスやソフトウエアの総称。気楽に話すことを意味する「チャット」と「ロボット」を掛け合わせている。人間同士の会話に近い形で情報をやり取りできることから、問い合わせに対する受け答えを自動化したり、情報の検索を効率化したり、時には雑談相手になったりと様々な場面で応用が進んでいる。
チャットボットには複数のタイプが存在する。代表的なのは、あらかじめ定めたルールやシナリオに従って、事前に用意した中から適切な返答を組み合わせて答えるタイプだ。企業のカスタマーセンターの顧客対応などで広く利用されている。想定外の質問には回答を持たないため、話題が逸れることがない。AI(人工知能)と異なり、あくまで手順通りに動作することから「人工無能(脳)」と呼ばれることがある。
このほか、米IBMのWatsonのようにAIと組み合わせることで、より人間に近い会話を実現するチャットボットの開発、実用化も進む。会話の流れを学習して、入力されたテキストの意図を解釈する。
例えば日本マイクロソフトのチャットボット「りんな」は、LINEやTwitterを通して本物の女子高校生を相手にしているかのような会話が楽しめる。りんなの「友達登録者」数は、2015年にリリースしてから3年間で約700万人に達した。米アップルのSiriや米アマゾン・ドット・コムのAlexaなど音声認識を組み合わせたチャットボットも広く普及しており、チャットボットと人間との会話は身近になってきた。
企業の導入も進む。ユニクロは2018年7月からスマートフォンのアプリを使い、チャットボットを使った顧客対応サービスを始めた。商品情報の提供や在庫検索のほか、顧客の着こなしに対する要望にも応える。三井住友銀行は2017年8月から、社員からのPC操作や人事関連の問い合わせに対応するチャットボットを導入している。約9割の問い合わせをチャットボットだけで解決できるようになり、人手による電話対応の件数は2割減ったという。
最近になって普及が進んだチャットボットだが、その歴史は古い。1966年に米マサチューセッツ工科大学のジョセフ・ワイゼンバウム教授が公表した「ELIZA(イライザ)」と呼ばれる自然言語処理プログラムが起源と言われる。原理的には単純なパターンマッチングだった。1990年代後半から本格的な実用化が始まり、マイクロソフトが提供するOffice97などでは「オフィスアシスタント」として搭載された。Excelを起動すると現れるイルカの「カイル」を覚えている読者も多いだろう。
誕生から50年以上にわたる進化を経て、新たな課題も生まれた。2016年3月に米マイクロソフトが公開したAIチャットボット「Tay(テイ)」は差別発言など不適切な表現を繰り返し、公開からわずか1日で停止に追いやられた。Tayは一般利用者から会話を学ぶ方式を採っており、悪意を持った一部の利用者が不適切な情報を教え込んだのが原因だった。
自然な会話の実現には、多様な表現や会話形式を学ばせなければならない。チャットボットと会話を楽しむには、正しい文法に基づくことが必要条件となる。