新基幹システムの開発頓挫を受け、Z会が2017年11月に委託先を訴えた裁判。東京地裁は一審判決で11億円の支払いを委託先の日立子会社に命じた。2022年10月に東京高裁が日立子会社の控訴を棄却し、Z会の勝訴が確定した。事件の発端は、夜間のバッチ処理が終わらないというシステム不具合だった。裁判に発展した経緯とZ会が勝訴した要因を裁判記録から読み解く。
システム開発の頓挫を受け、Z会と日立ソリューションズ(HISOL)が5年にわたり争ってきた裁判が決着した。Z会は新基幹システムの開発をHISOLに委託したが、完成したシステムは想定した性能を満たさず、本格稼働を前に利用中止を余儀なくされた。同社は2017年11月21日、契約の債務不履行解除に基づく既払契約代金の原状回復請求、および債務不履行に基づく損害賠償請求などで合計27億3056万6856円の支払いをHISOLに求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。
東京地裁は2022年2月24日の一審判決でZ会の主張を認め、同社既払契約代金のうち11億1394万2000円の支払いをHISOLに命じた。HISOLはこれを不服として控訴したが、東京高等裁判所は2022年10月5日に棄却を言い渡した。その後、HISOLは上告しなかったため、Z会の勝訴が確定した。システムの性能要件を巡り、両社の間で何があったのか。裁判記録を基に読み解く。
目標45分のバッチが15~20時間
Z会が基幹システム刷新のプロジェクトを始めたのは2012年10月のことだった。同社は当時、顧客からの申込受付や学習用教材の作成・配送、代金回収管理などを担う旧基幹システムを30年以上使い続けていた。既存システムの追加修正では同社が目指す教育サービスの提供は難しいと考えて刷新を計画。複数ベンダーを比較し、日立製作所と日立コンサルティングの提案を採用した。これを受け、実際のシステム開発を受託したのがHISOLだ。
旧基幹システムは高校受験や大学受験といった業態、学年のステージごとにシステムが分散しており、一部は重複した構成となっていた。新システムではこれらを統合し、会員の状況や目的に応じたサービスを個別に提供することを目指した。新基幹システムのうち教材発送用システムなどの一部は2017年1月11日から稼働を開始した。
問題が判明したのは1月13日だった。教材発送データの初回の夜間バッチ処理が午前0時30分から午前9時30分までのメンテナンス時間内に完了しなかったのだ。HISOLが1月17日に遅延が顕著だった3つのバッチ処理を調べたところ、目標時間45分としていたものが15~20時間かかったり、異常終了したりするものまであった。事態を重く見たZ会は1月19日に新基幹システムの利用を断念し、旧システムの継続利用を決めた。