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2020年1月に発覚した九州電力の大規模なシステム障害が長期化している。電気料金の請求額を確定できないなどのトラブルが98万件超発生。本記事を執筆している2020年3月18日時点で、完全復旧には至っていない。2020年4月の発送電分離と分社化に向け、システム分離とオープン化を同時進行させる「離れ業」に挑んだが、テスト不足もあり裏目に出た。

 「九州電力は4月までに収束させると表明しているが、相当難しいのではないか」。ある電力関係者はこう指摘する。別の関係者は「まだ出口が見えない」と現状を明かす。

 九電は2019年12月27日に稼働させた新料金システムでシステム障害を引き起こした。これにより電気料金を誤請求したり請求金額を確定できずに「推定料金」で請求したりするなどのトラブルが生じた。

 同社はその後、障害対応状況を随時公開している。2020年3月3日の公表文書によると電気料金トラブルに巻き込まれた顧客は98万超。うち7割に当たる約69万2000件については対応を完了したという。だが残り3割、28万8000件はトラブルが解決していない。

 九電が抱える需要家(個人や法人の顧客)は約800万件に上る。単純計算で1日当たり、約40万件のメーター値を処理し、各種料金を算出している。

 電力業界ではよく知られた話だが、電気料金の計算には膨大な「例外」がつきものだ。例えば料金未払いで電力の供給が止まっていても電球1つ分の電気を供給する「1Aブレーカー」、原子力発電所の立地地域に支払う「原子力立地交付金」、鉄塔による電波障害などへの補償費。他にも様々な例外が存在し、これら全てを反映して料金を計算しなければならない。

 「膨大な例外があるのは、公益性を求められ、どんな場合も常に公平でなければならないという考え方が電気事業の根底にあるためだ」。電力関係者はこう話す。膨大な顧客と膨大な例外。料金計算システム刷新にはこれらが重くのしかかる。九電も「例外」ではない。

不可避だったシステム刷新

 九電がシステム刷新に臨んだ理由は2020年4月1日に実施した「発送電分離」に備えるためだ。発送電分離は東日本大震災後に始まった電力システム改革の最終段階に当たる。

 大手電力各社は長年、「発電」「送配電」「小売」の3部門を垂直統合して会社を運営してきた。発電部門が発電した電気を、送配電部門が鉄塔や電線を組み合わせた送配電網の「系統」を使って、小売部門が開拓した需要家に届けるという具合だ。

 発送電分離は大手電力会社の送配電部門の法的分離を意味する。具体的には送配電部門を別会社にする。対象は全国に10社ある大手電力会社のうち、既に分社済みの東京電力グループと発送電分離の対象外である沖縄電力を除く8社に、Jパワーを加えた9社である。

 発送電分離により各社は料金システムを分離する必要が生じた。これまで1つの料金システムで2種類の料金を計算してきたからだ。

 具体的には需要家が消費した電気の量に応じた「電気料金」と、系統の利用料金である「託送料金」だ。電気料金の計算は大手電力各社に残るケースが多い小売部門が担い、託送料金の計算は送配電部門が分社した新会社に切り出す必要が生じた。

 料金計算以外にも様々なシステム改修が必要になった。例えば新会社は大手電力の小売部門だけでなく、新規参入事業者の「新電力」にも中立性が求められるため、分社に当たって情報遮断などの仕組みが新たに必要になった。各種改修の中で最も規模が大きいのが料金計算だった。