全3935文字

古河電気工業がERPベンダーのワークスアプリケーションズと係争中だ。グループの基幹系業務システム刷新を計画するもプロジェクトを中断。50億円超の損害賠償金を求めて2018年11月に提訴していた。古河電工は中断の原因を新ERPが期日通り完成しなかったためと主張している。ワークスアプリケーションズはシステムの完成責任は負っていないと反論する。

 度重なる開発作業の遅延で稼働予定期日までに完成しないことが明らかになったことから契約を解除し、既払代金の返還を求めるとともに完成未達で被った損害の賠償を求める――。

 古河電気工業と同社子会社で自動車部品製造を手掛ける古河ASが、ERP(統合基幹業務システム)ベンダーのワークスアプリケーションズを相手に50億円超の損害賠償を求める訴訟を起こしたのは2018年11月6日。約1年半が経過した現在も訴訟は継続中だ。

 問題が起こったのは、古河電工グループの基幹系業務システムをワークスアプリケーションズのクラウドERPパッケージで刷新するプロジェクトである。2016年7月に始まり、当初は2018年8月の稼働予定だった。ところが、採用したERPパッケージの品質や機能が要求を満たさず、これが原因で刷新が頓挫したと古河電工は主張している。一方、ワークスアプリケーションズは古河電工のためだけにERPパッケージを開発しているのではなくシステムの完成責任は負っていないとの主張だ。

 日経コンピュータの取材に対し古河電工は「係争中であり、一切のコメントを控える」とした。ワークスアプリケーションズは「(クラウドERPパッケージの)開発は事業計画通りに進捗しており、予定通り稼働した案件も出ている。引き続き当社の正当性を主張していく」としている。両社が裁判所に提出した訴状などの資料を基にプロジェクトの経緯を見ていく。

簡素な提案依頼書が争点に

 古河電工がグループの経理や購買、販売といった基幹系業務システムの刷新に着手したのは2016年のことだ。グループの業務プロセスの標準化などを目指したプロジェクトの一環として始まった。

 2016年2月、古河電工はまずRFP(提案依頼書)をITベンダー数社に送付した。稼働時期は古河電工が2018年8月、古河ASが2018年4月をそれぞれ予定し、並行して他のグループ会社のシステムも刷新する計画だった。古河電工が当時、会計システムで利用していたパッケージソフトの保守サポートが2019年3月に終了するため、移行期間などを踏まえて決めたもようだ。

 2016年5月末にはワークスアプリケーションズに対して正式発注した。古河電工は2005年からグループの人事システムでワークスアプリケーションズのERPパッケージ「COMPANY」を使っている。

 2016年7月には両社でキックオフミーティングを開催した。古河電工の主張によれば、この時点で古河ASは2018年4月、古河電工は2018年8月までの稼働を目指すと改めてワークスアプリケーションズに伝えたという。しかし、ワークスアプリケーションズは「稼働時期は古河電工が決めたものであり、当社は合意していない」との立場だ。

 裁判資料によれば、ワークスアプリケーションズは古河電工がプロジェクト当初に提示したRFP(「簡易RFP」と呼ぶ)について、「記載内容が簡素過ぎてRFPと呼べるものではなかった。そのような文書を踏まえて機能の開発はできなかった」との主張を述べている。これに対して古河電工は「簡易RFPの記載は簡単だったが、後から詳細な別の文書を送った。機能が不明だったら当社に聞けばよい」と反論しており、機能の実装に十分な情報があったかどうかを両社は争っている。

ERPの開発巡って見解割れる

 プロジェクトが始まった2016年当時、ワークスアプリケーションズは新たなクラウドERPパッケージ「HUE(ヒュー)」を開発していた。人事や会計などCOMPANYで既に存在するモジュールは機能を移行したうえで、AI(人工知能)をはじめとした新技術を活用した機能をHUE向けに開発する方針だった。古河電工が導入予定だった購買機能はCOMPANYになく、HUE向けに新たに開発していた。

 プロジェクトが始まってから2カ月後の2016年9月には、ワークスアプリケーションズがERPパッケージの開発状況を示す文書を古河電工に提示した。古河電工はこれに基づき、次の基幹系システムのパッケージソフトとしてCOMPANYとHUEのどちらを採用するかを検討。COMPANYは今後新機能の開発が少なくなるとの説明を受け、HUEの採用方針を固めた。ただしこの段階でHUEは一部機能が未完成だったため、2017年4月に改めてHUE採用の判定会議を実施すると決めた。

 ワークスアプリケーションズが2016年9月に提示した文書も争点となっている。古河電工は同文書が「提示した簡易RFPの機能を備えたHUEをワークスアプリケーションズが開発し、経理、購買領域の機能を利用できるように設定・検証などの導入作業を実施し納入すること」を示していると主張する。一方、ワークスアプリケーションズは同文書でHUEについて説明したことに同意するものの、「パッケージソフトは複数社に提供することが前提であり、古河電工だけに向けた機能の開発は約束していない」との趣旨で反論している。