全3984文字
PR

わずか2カ月で構築

 IT室が自治体向けに開発したVRSは、河野太郎規制改革相が2021年1月下旬に構築を表明した。小林史明内閣府大臣補佐官が主導する形でIT室が2013年設立の医療スタートアップであるミラボに開発や保守を委託した。約3億8500万円で随意契約を結んだ。ミラボはAmazon Web Services(AWS)上にわずか2カ月ほどでシステムを構築した。自治体が住民一人ひとりの接種状況をマイナンバーなどによって把握できるシステムだ。

 IT室がVRSの開発を急いだのには理由がある。新型コロナウイルスのワクチンは1回目の3週間後に2回目の接種が推奨されている。住民が他の自治体に転出した場合も、自治体間で接種履歴を把握する必要がある。

 しかもワクチン接種が始まる4月は、例年なら住民の異動が最も多い時期だ。ところが自治体が管理している既存の予防接種台帳は、市区町村が接種者のデータを取りまとめるのに数カ月かかる。市区町村の9割が紙の情報を1カ月ごとにシステムに手動登録しているといった工程があるからだ。

 新型コロナのワクチン接種では市区町村が住民1人ひとりの接種状況をリアルタイムで把握して様々な問い合わせに対応したり、国や都道府県もワクチン接種状況のきめ細かな情報提供したりする必要がある。厚生労働省が開発を進めたワクチンの配送と接種状況を管理するシステム「V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)」は住民の接種状況を把握する仕組みがなかった。このため政府は急きょ別のシステムが必要と判断してVRSの開発に乗り出した。

 政府はVRSの開発や運用に際して、数々の例外的な手法や法令を適用するといった異例の対応を進めてきた。

 IT室は2020年12月にまず自治体関係者との意見交換の場としてFacebookに「デジタル改革共創プラットフォーム(β版)」を立ち上げた。VRSのユーザーとなる自治体職員も検討に加わり情報共有を図りながら開発を進めた。

 さらに政府はVRSを利用する自治体に、マイナンバー法の例外規定を初めて適用した。住民が1回目の接種後に別の自治体に転出して接種券などで接種履歴を確認できない場合でも、転出先の自治体が住民の同意を得てマイナンバーで接種歴を照会するためだ。

 そもそもマイナンバー制度は行政機関や自治体がそれぞれマイナンバーを含む個人情報(特定個人情報)を既存のシステムに分散して管理する「分散管理」が特徴だ。個人情報をやり取りする際には「情報提供ネットワークシステム」を利用し、それぞれの機関別符号によって個人情報の照会や提供をする。いつ誰がどの個人情報を連携したかという記録が残り、住民はマイナポータルで履歴を確認できる。国や自治体の間でマイナンバー自体が飛び交う仕組みではない。

 ところがVRSは情報提供ネットワークシステムを使わない。機関別符号も用いない。直接マイナンバーなどで接種歴を照会する。政府関係者は「情報提供ネットワークシステムを利用する時は符号を使うというのが法律だ」として法令上の問題はないと説明する。VRSでは各市区町村がAWS上に構築したシステムのそれぞれの領域でマイナンバーを含む住民の個人情報を管理する。論理的に分散管理するものの、従来のマイナンバー制度になかった運用だ。住民が接種会場などでマイナンバーを伝えたりマイナンバーカードを持参したりする必要はない。

 IT室はVRSの利用を一時的なものと位置づけている。自治体向け文書で「本来、予防接種情報については情報提供ネットワークシステムにおいて情報連携するもの」としたうえで、「今後、データ標準レイアウトを定義の上、同システムを通じた情報連携を実施予定」と説明した。

 政府が異例の対応はまだある。政府は自治体向け文書で、システム障害などによるトラブルについては「国が全責任を負う」とした。加えて各自治体に訴訟が提起された場合は「国に訴訟遂行を求めることができる」と踏み込んだ。

 市区町村はマイナンバー法で定められた「マイナンバー保護評価(特定個人情報保護評価、PIA)」を実施する必要もある。PIAとは個人情報を保護する技術的な仕組みや運用を体系的に説明して自己評価する手続きだ。ただし個人情報保護委員会は、VRSのPIAについて本来必要な事前ではなく事後実施で問題ないとして、自治体向けにひな型も用意した。こうした対応も異例だ。

 VRSの開発は複数のベンダーが提案する中からミラボに委託した。その理由をIT室は「接種開始に間に合うよう総合的に判断した。過去に予防接種管理システムの開発経験があることなどを考慮した」と述べる。