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システム開発の頓挫を巡る、文化シヤッターと日本IBMとの間の裁判で、東京地方裁判所は日本IBM側に19億8000万円の支払いを命じた。米セールスフォースのPaaSを用いた販売管理システムの構築を目指し、2015年に始めた開発プロジェクトだったが、2017年にストップしていた。東京地裁は開発失敗の原因をどう認定したのか。裁判記録をもとに読み解く。

 文化シヤッターが、20年以上前から使用していた販売管理システムを刷新するプロジェクトを本格的に始動させたのは2015年1月のことだ。日本IBMに提案依頼書(RFP)の作成を委託。そのRFPを基に複数ベンダーから提案を受けた上で、日本IBMを開発委託先として選定した。

 日本IBMの提案はシステム構築に米セールスフォースのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である「Salesforce1 Platform」を用いるものだった。RFPでは標準部品を80%、セールスフォースのPaaS用プログラミング言語である「Apex」や「Visualforce」を使ったカスタム開発を20%とする予定だった。システム稼働は2016年7月、総開発費用は約12億3400万円を見込んでいた。

 ところが開発は見通しを大きく外れ頓挫する。東京地方裁判所の認定によれば、文化シヤッターが旧システムと同様の画面の見た目にこだわり、日本IBMも積極的に標準部品の活用へ誘導することなく2次要件定義フェーズや設計・開発フェーズを進めたため、カスタム開発の割合は95%に膨れ上がった。これによって年3回あるSalesforce1 Platformのバージョンアップへの対応が厳しくなることが予想され、運用困難なシステムとなった。さらに2016年3月に始めたシステム結合テスト(SIT)では進捗率50%の段階で770件の欠陥が見つかった。これは開発規模から予想される標準的な欠陥発生数である467件を大きく上回る。

 日本IBMは2017年5月29日、画面などのカスタム開発を全廃するとともに、2年4カ月と21億5000万円の追加費用を要する開発を提案した。しかし販売管理システムで目指す業務革新ポイント18項目のうち15項目を部分的にまたは全く実施できない内容だった。しかも既存システムとのデータ連携も技術的な実現可能性を欠いていただけでなく、既存システムで使用していたホストコンピューターを継続利用する必要があるなど、文化シヤッターとして受け入れがたい提案だった。

 日本IBM役員から開発状況の説明を受けた文化シヤッター役員からは「ほとんどの今までの作業はムダだった?」「ここまで作って動作しないから、チャラにしたいはあり得ない」といった悲痛な訴えがあったという。文化シヤッターは2017年11月、開発失敗の責任は日本IBMにあるとして27億4000万円の損害賠償を求める訴訟を提起。対する日本IBMは2018年3月に追加作業の未払い金など12億1000万円の支払いを求めて反訴した。

日本IBMにプロマネ義務違反

 裁判では開発が頓挫した責任の所在が主な争点となった。東京地裁は判決文で日本IBMが「開発手法を誤り、かつ、適時適切な修正、調整を通じてシステム完成に向けたプロジェクト・マネジメントを適切に行うべき義務に違反」したと認定し、文化シヤッターに対する損害賠償義務があるとした。

 日本IBMはそもそも、文化シヤッターに「システムに業務を合わせるアプローチは取らない」としていた。その上で高い運用・保守性などをうたい、Salesforce1 Platformの標準部品を主軸としつつ、カスタム開発の併用による画面レイアウトの高い自由度をアピールしていた。

 Salesforce1 Platformは特定組織がリソースを独占しないよう、Apexコードの最大量を1社当たり300万文字に制限していた。日本IBMはカスタム開発の増大に合わせて4回にわたりこの制限の拡張を申請し、最終的に制限は1800万文字となった。

 ところがSalesforce1 Platformには毎年3回のバージョンアップがあり、カスタム開発のある顧客はアプリケーションの動作チェックや新機能の確認を要する。開発中の販売管理システムはカスタム開発比率が95%に膨れ上がっており、東京地裁は「バージョンアップの都度看過し得ない障害が生ずるなどして早晩機能停止することが容易に推認できる状態にあった」とする。