3行が合併して発足したきらぼし銀行は営業開始初日の2018年5月1日に3つの勘定系システム障害を引き起こした。キャッシュカードが使えない、振り込みの入金遅延、ATMから一部口座に振り込みができないといったトラブルが続いた。作業漏れやテスト項目の洗い出しミスなど複数の要因が重なった。
春の大型連休の谷間だった2018年5月1日、東京都を地盤とする東京都民銀行と八千代銀行、新銀行東京の3行が合併してきらぼし銀行が誕生した。午前8時半から東京・南青山の本店で開催したオープニングセレモニーを終えて一息ついた幹部の下にシステム障害の報告が続々と舞い込んだ。データ移行の作業漏れ、勘定系システムに関する認識不足、追加したプログラムのテスト抜けに起因する3つの障害が統合初日に相次ぎ発生した。
旧3行は2016年8月に合併を発表。それまで都民銀行はNTTデータの共同利用型センター「STELLA CUBE」を、八千代銀行はNEC製のオープン勘定系システム「BankingWeb21」を利用してきた。2018年5月の合併時点では、新銀行東京のシステムを都民銀行のシステムに統合。八千代銀行のシステムは残したままとし、2つのシステムを相互接続する形態を採った。この構成下でトラブルが起こった。
キャッシュカードが使えない
最初に発生したのは新銀行東京のキャッシュカードがATMで使えない障害だった。移行作業のため3日間にわたり休止していたATMサービスを5月1日午前7時に再開した直後、行員が本番環境で実施した確認で発覚した。新銀行東京のICチップ搭載型キャッシュカードをATMに入れると「お取り扱いできません」とのメッセージが表示された。
障害を知ったきらぼし銀行は調査を開始。勘定系システムでICチップを認証する際に照合するテーブルの登録漏れが判明した。本番環境への適用作業を進め、午前9時前に復旧した。
新銀行東京のシステムのプログラムやテーブルなどを都民銀行の勘定系システムに追加するなかで、ICチップ情報のテーブルが漏れたのが原因だった。都民銀行が通常のプログラムやテーブルを作成する際はベンダーに「作成依頼書」を出して作業してもらっていた。ICチップなど機密性が高い情報のテーブルなどは自行で作成し、担当者が現場でベンダーに登録を依頼。作成依頼書は出していなかった。
試験環境では新銀行東京のキャッシュカードが使えていた。だが本番環境を構築する過程でミスが起こった。ベンダーに出した作成依頼書を原本として、統合するプログラムやテーブルに漏れがないかをチェックしたが、作業依頼書が存在しないICチップ情報のテーブルはチェックの対象外。本番環境への登録漏れに気付かなかった。
きらぼし銀行は異なる作業手順の混在が原因だったと判断。今後は機密性が高く自社で作成する場合も、作成までを「済み」と記載した依頼書を出す手順に変更し、漏れを防ぐ考えだ。
振り込み処理が遅延
最初の障害が復旧したころ、今度は八千代銀行の口座宛ての振り込みが遅延する障害が発覚した。全銀システムから受け取った振り込みの一部が入金できずに積み上がる状態だった。
きらぼし銀行発足に伴い、全銀システムは旧行名宛ての振り込みについて金融機関名をきらぼし銀行に読み替えて送信し始めた。全銀システムは銀行名の変更や店舗の統廃合によって読み替えた場合、そのことを示すフラグを立てる。だが八千代銀行の勘定系システムはこのフラグの意味を「店舗の統廃合」だと認識する仕様だった。存在しない統廃合情報を参照したため、口座を特定できず入金できなくなった。
移行にあたって全銀システムのシミュレータを使ったテストはしたが、読み替えを示すフラグは利用しなかった。店舗の統廃合ではないとの認識に基づきフラグを立てる必要はないと判断したためだ。きらぼし銀行は読み替えフラグを店舗の統廃合と判定しないようにプログラムを修正。1日の午後2時過ぎに障害は復旧した。振り込みが日をまたぐ事態には至らなかったものの、遅延した振り込みは約1万6000件に上った。
きらぼし銀行は銀行合併の経験者の視点が足りなかったと悔やむ。障害を受けて、同行は八千代銀行のシステムを手掛けたNECに運用管理体制の強化を求めた。併せて銀行合併に伴うシステム統合の経験者を新たに外部アドバイザーとして招いた。