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東京証券取引所で2020年10月1日に大規模なシステム障害が発生。全銘柄の売買を終日停止する未曽有の事態を招いた。原因は富士通が作ったNASのマニュアルの不備にあり、東証も見逃した。これが設定ミスにつながり、5年を経てメモリー故障で顕在化した。金融庁は東証の立ち入り検査を実施し、行政処分を検討しているとみられる。

 「市場参加者の皆様、投資家の皆様に多大なご迷惑をおかけし誠に申し訳ない。深くお詫び申し上げる」――。

 東京証券取引所の宮原幸一郎社長は2020年10月1日、システム障害で終日取引停止に至ったことを謝罪した。

 東証が全銘柄の売買を終日停止したのは取引を全面システム化した1999年以降初めて。東証は過去にも大規模なシステム障害を起こし、そのたびに対策を講じてきた。それでも今回の事態を防げなかった。「非常に力及ばずというところを痛感している」。東証の横山隆介常務執行役員は唇をかむ。

 金融庁も東証のシステム障害を重く見て、翌2日に金融商品取引法に基づく報告徴求命令を東証と親会社の日本取引所グループ(JPX)に出した。両社は16日、金融庁に原因や再発防止策などを盛り込んだ報告書を提出。金融庁は今後、東証に立ち入り検査のうえ行政処分を出すとみられる。

エラーメッセージを大量検知

 株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」の異常を東証が検知したのは10月1日午前7時4分。複数のサブシステムが共通で使う銘柄情報やユーザー情報などを格納するNAS(Network Attached Storage)へのアクセス異常を示す大量のメッセージを検知した。その後、社内で利用する売買監理画面が使えなくなり、さらに相場情報の一部が配信不能になった。

 arrowheadを開発する富士通と確認したところ、Active-Activeの2台構成で冗長化していたNAS全体が使えない状況と判明。本来はNASのメモリー障害時、もう1台だけの運用に自動で切り替わるはずが、そうならなかった。

 NASの切り替えはその後もうまくいかず、午前8時36分に全銘柄の売買停止を決めた。通常は社内の売買監理画面で売買停止の操作をするが、同画面が使えないためarrowheadと取引参加者をつなぐネットワークを午前8時54分に遮断した。

 約30分後の午前9時26分、両社は手動でNASの切り替えに成功。売買再開に向けてarrowheadの再起動を検討し始めたが、ここで大きな壁にぶつかった。証券会社などにヒアリングしたところ、対応できる証券会社が限られたのだ。

 「(arrowheadを再起動すれば)証券会社は(arrowheadに送信済みの注文の扱いなど)通常と異なる対応が必要で、混乱が生じると予想できた」(東証の川井洋毅執行役員)。そのため、東証は午前11時45分に終日売買停止を決めた。横山常務執行役員は「想定外という言葉は使いたくない」と前置きしたうえで「(対応が)後手に回ったのは事実」と話す。

 arrowheadに証券会社からの注文が届き始める午前8時より前に外部ネットワークを遮断できていればイレギュラーな注文処理は不要で、早期に取引再開できていた可能性があるが「(制御端末でNASの構成を切り替える)コマンドを送っても作動しない状態で、時間を十分に意識して手を打てなかった」(横山常務執行役員)。